ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Sympathizer” 雑感(2)

 今まで書いてきたお粗末なレビューを検索したところ、部分的にヴェトナム戦争を採りあげた作品が5冊あった。発表順に、Philip Roth の "The Human Stain" (2001)[☆☆☆★]、Jeffrey Lewis の "Meritocracy: A Love Story" (2004)[☆☆☆★★★]、John Irving の "Last Night in Twisted River (2009)[☆☆☆★★]、Sebastian Barry の "On Canaan's Side" (2011)[☆☆☆★]、Paul Auster の "Report from the Interior" (2013)[☆☆☆★★] である。
 このうち、きょうは "Meritocracy" のレビューを再録しようと思ったのだが、本ブログを検索したところ、10年前に書いた "The Human Stain" のレビューを掲載していなかったことを発見。"The Sympathizer" がろくに進んでいないこともあり、それでお茶を濁すことにした。アメリカ人作家がヴェトナム戦争をどうとらえているかを知るひとつの手がかりにはなると思う。それが "The Sympathizer" の鑑賞にも役立つかもしれない。

The Human Stain

The Human Stain

[☆☆☆★] ★は2つでもいい。「差別発言」で退職を余儀なくされた老教授が、40歳近くも年下の女性と恋仲になり……という裏表紙の紹介文や冒頭場面などから、甘いメロドラマを期待して読みはじめると酷い目にあう。読めば読むほど、ヘヴィな内容が続くからだ。人種差別、性的虐待ヴェトナム戦争の後遺症……ここには、現代のアメリカが抱えている諸問題の縮図が端的に示されている。しかし、そうした現象はアメリカ社会というより、人間存在そのものの問題としてとらえるべきだ、と著者は述べているように思える。というのも、老教授に敵対するフランス生まれの若い美人教授も含め、本書の主要な登場人物はすべて、先天的なハンディであれ後天的なトラウマであれ、それぞれ心の中に深い傷を負っており、その傷とどう対峙していくかが、この物語の原点になっているからだ。力作である。ただし、「差別発言」をはじめ、老教授が非難の的となる設定にかなり無理があり、その無理を自然なものにしようとするためか、饒舌になりすぎている部分がある。英語も複雑な構文と難しい単語が頻出し、現代の作品としては難解な部類に入るだろう。
(写真は宇和島市寺町界隈)