ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Viet Thanh Nguyen の “The Sympathizer” (3)

 本書を読んでいて、ああやっぱりね、と思ったことがある。アメリカの保守派が考えているヴェトナム戦争の敗因である。'.... your soldiers fought well and bravely, and would have prevailed if only Congress had remained as steadfast in their support of you as the president promised. This was a promise shared by many, many Americans. But not all. You know who I mean. The Democrats. The media. The antiwar movement.' (p.114)
 こう演説しているのはカリフォルニア州共和党下院議員で、相手はロス在住の亡命ヴェトナム人たちだ。やがて彼のほこ先は、the hippies や the radicals, the defeatists, communists, traitors などへと向けられる。つまり作者は、議員の演説を戯画的に採り上げているのであって、その主張を百パーセント支持しているわけではない。
 が、少なくとも、こういう主張があること自体は事実のようだ。ぼくも実際、似たような趣旨の記事を何かで読んだ憶えがある。戦局としては一進一退だったが、メディアと反戦運動によってアメリカは敗北した、というものだ。
 真偽のほどはわからない。が、ぼくは日本のメディアによる情報操作を感じることがよくあるので、ひるがえってアメリカでも、という気がしないでもない。時間があれば調べてみよう。
 ともあれ、戦争がテーマとあってシリアスな話題になりがちだが、本書にはじつはコミカルな場面もけっこうある。今やロスでクラブ歌手となった将軍の娘と主人公が再会したときのことだ。'All this time I kept my gaze fixed on hers, an enormously difficult task given the gravitational pull exerted by her cleavage. While I was critical of many things when it came to so-called Western civilization, cleavage was not one of them. .... the West invented cleavage, with profound if underappreciated implications. A man gazing on semi-exposed breasts was not only engaging in simple lasciviousness, he was also meditating, even if unawares, on the visual embodiment of the verb "to cleave," which meant both to cut apart and to put together.' (p.232)
 男性読者だったら、最後の 'to put together' でプッとふきだすことだろう。あれ、ほんとに目のやり場に困るのですよ。
 こんなコミック・レリーフを楽しみながら、ぼくが思い出したのは映画『博士の異常な愛情』と『M★A★S★H マッシュ』。ご存じ核戦争、朝鮮戦争を題材にしたブラック・コメディーだが、ヴェトナム戦争については、小説でも映画でもコメディー調の作品があるのかどうか寡聞にして知らない。前回、「これでぼくのヴェトナム戦争小説ベスト3も決定」と書いたが、もしまだ新機軸を打ち出せる余地があるとしたら、それはブラック・コメディーしかないかもしれない。
(写真は、宇和島市辰野川にかかる観音橋と寺町界隈)