ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lauren Groff の “Fates and Furies” (3)

 俗に「おもしろい本」と言うし、ぼくもふだんそう言うことが多い。が、よく考えてみると、その「おもしろい」とはどういう意味だろうか。
 大ざっぱに分類すると、1.テーマ、2.ストーリー、3.登場人物、4.語り口、5.構成などの点で、それぞれのおもしろさがあると思う。もちろん、この5つだけで小説の魅力を語り尽くせるわけではない。有名な E. M. Forster の "Aspects of the Novel" などをひもとけば、はるかに説得力のある精密な小説論が展開されていることだろう。
 が、同書その他、文学関係の専門書は大昔、ほとんど処分してしまった。まだ持っているものは読み返す時間がない。
 そこで思いつくまま上の5項目を挙げてみたわけだが、これだけでも重複する部分があり、各要素について個々に論じることはむずかしい。それをあえて1に絞ってみよう。
 これまた雑な話だが、テーマのおもしろさには、A.知的昂奮をかきたてるもの、B.心の琴線に触れるもの、があると思う。むろん、これもやはりAとBが複合している場合もあり、ほんとうはムチャクチャな分類だ。
 さらにと言えば、C.あの部分を昂奮させるもの、もあるだろう。が、これはとうに還暦を過ぎたぼくにはほとんど関係ない。ざっと書棚を見渡したところ、Mandiargues の "The Motorcycle" がそれらしき本のような気がするが未読。
 さて、ぼくは自分の好みとして、Aタイプの小説を高く評価する傾向が強い。いわゆる desert island book はたぶん "The Brothers Karamazov" かな、と思うことがあるくらいだ。
 けれども、ぼくも人の子。Bタイプのものにも、けっこうハマってしまうことがある。今回の "Fates and Furies" がそうだった。特に後半。これはヤバイです。
 後半が前半の種明かしという要素もあるのでネタを割ってはいけないが、前々回のレビューから言葉を拾うと、「純情な男を心から愛した女の悲しい運命」。「痛切な思い」。「切ない真心」。ぼくは、こういうのに弱い。特に最後のやつですな。人気絶頂期の山口百恵も、「女の子にとっていちばん大切なものは?」と訊かれたとき、「まごころ」と答えていました。
 こんな小説に出くわしたとき、それをどう評価したらいいのか。「なにをゴチャゴチャ言ってるんだい。そんなの簡単! 自分が気に入ったら、高い点をつけるだけの話じゃないか」という声が聞こえてきそうだ。
 が、ぼくはひさびさに心の琴線に触れる小説と出会ったので、こう考えずにはいられなかった。これを、知的昂奮をかきたてるタイプの小説とまったく同じスタンスで点数評価していいのか。両者に優劣はあるのか、ないのか。
 きょうはこの点について書こうと思ったのだが、前置きだけでもう疲れてしまった。
(写真は宇和島市宇和津彦神社。参拝しているのはぼくの母と弟)