ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Deborah Levy の“Hot Milk” (2)

 昨日のレビューにアップしたカバー写真は kindle 版。同じ表紙だが、実際に読んだのはイギリスから取り寄せたハードカバーである。注文した理由は、なんとなく。が、最近のオッズを調べると、既報のとおり今年のブッカー賞候補作で1番人気のようだ。
 これは評価の分かれる作品だと思う。じつはぼく自身、かなり迷ってしまった。☆☆☆★★は確実なのだが、★をひとつ追加すべきかどうか。
 そんなときは、自己流の点数評価の元ネタである、故・双葉十三郎の『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』をパラパラめくることにしている。といっても正本は全6巻。これをひもとくのは、さすがにシンドイ。それゆえ文春新書『外国映画ぼくの500本』と、ついでに同『日本映画ぼくの300本』。この2冊を参考に、ふうむ、『カサブランカ』が☆☆☆★★★とは、いやはやキビシイなあ、とか、『仁義なき戦い』が☆☆☆★★とは、え、ウソでしょ、などと思いながら、ひるがえってこの小説は何点だろう、と何の根拠もなく考える。
 で、本書の場合、その結論は★ひとつ(約5点)追加。たった5点、されど5点。お遊びと思いつつ、なぜかこだわってしまう。フタバさんもそうだったのではないか、と思えるフシがある。点数の低い作品でも、本文でけっこうホメているケースがあるからだ。その美点が約5点に相当するかどうか。悩ましいお遊びである。
 さて、こんなシーンはどうだろう。'It was late afternoon and the beach was empty. I waded into the warm oily sea, .... I told myself I was going to swim to North Africa which I could see across the horizon in vague outline. Heading for a whole other country was my way of doing the crawl for a long stretch, aiming for somewhere impossible to get to. The water became clearer and cleaner the further I swam out. After about thirty minutes I turned on my back and floated under the sun, my lips cracking all over again from the salt and heat. I am far away from shore but not lost enough. I must return home but I have nowhere to go that is my own, no work, no money, no lover to welcome me back.' (p.71)
 夏、陽光の降りそそぐ南スペインの海。主人公の若い女 Sofia の「かりそめの中途半端な人生、曖昧で不確かな現実を象徴する」場面のひとつだ。「本書はこうした濃密な心象風景を、さまざまな思いの去来する一瞬の情景を楽しむ本である」。
 テーマとしてはおなじみで、むしろ平凡と言ってもいいほどだが、劇的な事件と事件のあいだにこういうシーンがさりげなく挿入されると、思わず「うまいなあ」とため息をついてしまう。と同時に、遠いあの夏の日がよみがえってくる。こんな小説はほんと、評価に困ります。
(写真は、宇和島市泰平寺の裏山。昔はこれほど墓がなく、日暮れまで遊び回ったものだ。撮影したのは今年の夏、午後6時ごろ)