ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tash Aw の “Five Star Billionaire” (2)

 まず、ぼくの Longlist: Dynamic Ranking に追加しておこう。
  1. "Five Star Billionaire"
  2. "Harvest"
  3. "We Need New Names"
  4. "The Spinning Heart"
  5. "TransAtlantic"
  6. "The Testament of Mary"
 つまり、いままで読んだなかでいちばんいい。ただし、アンテナに載せている The Mookse and the Gripes Forum には、6人の読者がいろんなランキングを発表している。較べてみるとおもしろいもしれない。それにしても、もう8冊も読んでいる人がいるのですな。ぼくもがんばらなくては。
 本書がロングリストの発表前から海外のファンのあいだで話題になっていたことは、上のフォーラムを読んで知っていた。が、どうやら Mohsin Hamid の "How To Get Fithy Rich in Rising Asia" [☆☆☆★★] とおなじような作品らしいというコメントがあったので、同書に十分満足していたぼくは、それならパスしてもいいかなと早とちりしてしまった。
 おまけに、Tash Aw はぼくにとって鬼門の中国系作家である。台北生まれのマレーシア育ち、現在はロンドン在住とのこと。過去にはウィットブレッド新人賞も受賞したこともあるそうだが、ぼくはいままで読んだことがない。去年のブッカー賞最終候補作、Tan Twan Eng の "The Garden of Evening Mists" [☆☆☆★] や、さらには、Janice Y.K. Lee の "The Piano Teacher" (09) [☆☆☆] などが思い出され、もしまた紋切り型の日本人の描写が出てきたらイヤだな、と敬遠してしまった。
 が、それはぼくの偏見だった。読後のいまは大いに満足している。この数年で読んだ中国系作家のなかでは、Yiyun Li に次いで共感するものが多かった。(恥ずかしながら "A Thousand Years of Good Prayers" は未読だが、おととしのフランク・オコナー国際短編賞の最終候補作、"Gold Boy, Emerald Girl" [☆☆☆★★★] はとてもよかった)。 
 2人に共通することだが、彼らの作品には政治的プロパガンダの要素がまったくない。本書にいたっては終始一貫、ビジネスライク。上海のことなどまったく知らないぼくには、「ここはほんとうに共産国なのか」とびっくりするほど金儲けや商取引の話題が連続する。「経済的にはまさに資本主義社会そのものである」。これは明らかに本書の「売り」のひとつだろう。