ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Do Not Say We Have Nothing" 雑感 (2)

 ぼくの見落としでなければ、タイトルの表現が本文中に初めて出てくるのはここだ。"Jiang Kai," she said spitefully. "now I understand. I'll forget Prokofiev. I'll play the 'March of the Volunteers' and 'The Internationale' for all eternity. The old world shall be destroyed. Arise, slaves, arise! Do not say that we have nothing. That should win me the Tchaikovsky Competition and please everyone, you most of all." (p.204)
 これは文化大革命当時の話である。Jiang Kai とは、上海の音楽院に通っている学生ピアニストで、she は Zhuli という学生ヴァイオリニスト。とくれば、これがおおよそどんな文脈かすぐに察しがつくことだろう。
 このくだりをもとに wiki を検索してわかった。The old world から始まる3つの文は、中国版『インターナショナル』の英訳の一節だったのである。
 こんなこと、本書の紹介記事を読めば書いてありそうだが、なにしろぼくは、どんな作品でも白紙の状態で取りかかる主義なので、基本事項をつかむのにも時間がかかる。それでもぼくには少しずつ話が見えてくるほうがいい。
 Jiang Kai については冒頭にも言及がある。このとき彼は39才。天安門事件(1989)当時のことだ。'In a single year, my father left us twice. The first time, to end his marriage, and the second, when he took his own life.' (p.3)
 読者としては当然、主人公の「私」の父親はなぜ自殺したのかという点に興味が向かうはずだが、これまた当然、作者のほうはなかなか種明かしをしない。話は若い頃の Jiang Kai や Zhuli をはじめ、その音楽教授、その家族へと広がり、時代も1940年代にまでさかのぼり、それから年月がたって今ようやく文化大革命。まことに「重厚な大河歴史小説」であります。
(写真上は、宇和島市東禅寺。写真下、八幡神社(再アップ)のすぐ近くにある)