ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Door" 雑感 (2)

 この週末も仕事ざんまいだった。土曜日は夕方まで職場で残業、きのうは〈自宅残業〉。まったくもって宮仕えの男はつらいよだが、すでに年金生活を始めている友人や知人もいるのでゼイタクは言えない。
 さて、Magda Szabo の "The Door" だが、ようやく内容を紹介できそうなところまで読み進んだ。ハンガリー語の原書が出版されたのは1987年。英訳版の刊行は2005年。それがどうして去年、ニューヨーク・タイムズ紙で年間ベスト5小説のひとつに選ばれたのかは不明。
 とにかくこれは、読めば読むほど「非常に密度の高い秀作」だという思いを強くしている。が、テーマはまだよくわからない。
 主人公はいちおう、語り手の「私」だが、話題はほとんど Emerence という年老いた家政婦のことだ。そこで実際の主人公は、この Emerence と言っていいだろう。
 彼女は老婦人ながらすこぶる元気な働き者で、威厳がありプライドも高く、自分の信念をがんとして枉げない。変人、偏屈そのものである。それゆえ「私」と衝突することもしばしば。その結果、折れるのはいつも「私」のほうだ。
 こうしたバトルがドタバタ喜劇になっている点がおもしろい。「私」が飼いはじめた犬の Viola のしつけでも、絶大な権力を発揮するのは Emerence である。So far the dog had been crouching on his stomach, weeping. He hadn't moved a muscle during the beating, or made the slightest attempt to escape. Now he picked himself up. "Say you're sorry!" I had no idea he knew how to take an oath, but it seems he did. He placed his left paw against his heart and with the right, like a patriotic statue, pointed to the sky. "Say it, Viola!" she [Emerence] directed, and Viola barked. "Again!" Again he barked, keeping his eyes on his tamer to see how well he was doing. Instinct told him that his future depended on it. "Now promise that you'll be a good boy," I heard her say, and Viola put out his paw towards her. "No to me, I already know; to your mistress." (pp.45-46)
 ぼくはクスクス笑いながら読んでしまったが、これがどんなテーマにつながるのかはイマイチわからない。「私」と Emerence は次第に深い愛情の絆で結ばれていく。ドタバタはその布石ということなんでしょうか。
(写真は、宇和島市立明倫小学校にある、昭和42年(1967)に建立された創立80周年記念碑。刻まれているのは、校歌の一、二番とも同じ最後の一節。校歌が制定されたのは昭和11年で、作詞者は当時校長だった国村三郎先生。とても立派な先生だったと母から聞いたことがある。「ああ明倫シュクとしてあり。つねにサンたり」。この「シュク」が「粛」で、「サン」が「燦」だと知ったのは大人になってから。子供のころは何のことかわからないまま習いおぼえ、大人になって意味を知り感動する。それが教育というものだと実感した次第)