ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Chateau of Secrets" 雑感(3)

 世間はきょうからゴールデンウィークだが、ぼくはきょうも出勤。いつもより帰宅が遅く、疲れた。いま、Henning Schmiedt の "Schnee" をBGMに流しながらリラックスしているところ。たしかに〈雪の音〉らしい。
 きょうはまず、朝、バスの中から遠くのツツジに思わず見とれてしまった。春の花にはどれも生の息吹を感じるものだが、三角巾で肩をつっているいま、なおさら花々の美しさが目にしみる。
 ゆうべから、日本文学の catch up シリーズとして、川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』を読みはじめた。選んだ理由はとくにない。「人とでかけたり、付きあったりすることはもちろん、言葉を交わしたりふつうに会話することさえうまくできず、小さなころからそういったことに自信のなかったわたし」。わかるなあ。きょうも風呂上りに続きを読む予定。
 表題作、"Chateau of Secrets" にもパワーをもらっているところ。気楽に読み流せる文芸エンタメだが、それだけに小説の基本要素がよくわかり、とてもおもしろい。おもしろい本を読むと元気が出てくる。
 基本要素とは、まずストーリーが単純ながら、しっかりしていること。過去篇のおもな舞台は、ドイツ占領下にあるノルマンディーの貴族の館。と書いただけで思い浮かぶ一定のストーリーから大きく逸脱したものではないが、スリルとサスペンスがあり楽しい。
 その過去と結びつく動きを見せているのが現代篇。舞台はヴァージニア州リッチモンドに移り、貴族の娘だった Giselle もいまや寝たきり老人。戦争当時のことを尋ねられ、謎の言葉を発する。館ではいったいどんな事件が起きたのか。
 ドキュメンタリー映画製作の話が持ち上がり、孫娘の Chloe が久しぶりに館を訪れることになる。ところが、フランスに渡る直前、Chloe は婚約者で州知事候補の Austin とバトル。この副筋が相当におもしろく、目が離せない。
 基本要素その二。娘時代の Giselle は美女で、館に潜伏するレジスタンスの闘士の弟 Michel もイケメン。Chloe も美貌の持ち主で、Austin はケネディーになぞらえられるほど。そう、美男美女が登場することもまた、こういう文芸エンタメには欠かせない条件なのである。なにしろ、絵になりますからね。
(写真は、宇和島市神田川原(じんでんがわら)を流れる小川。数年前の春、ぼくは水の燦めきに生命の復活を感じた)