ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kurt Palka の “The Piano Maker”(1)

 ゆうべ本書についてふれたあと、なんとか頑張って読みおえた。Kurt Palka はカナダではわりと人気作家のようである。中身を忘れないうちにレビューを書いておこう。

The Piano Maker

The Piano Maker

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[☆☆☆★★] 1930年代、古き佳き時代のなごりをとどめるカナダ、ノヴァ・スコシア州。小さな町の教会の専属ピアニストとして招かれたエレーヌは大いに仕事ぶりを評価されるが、じつは内心深く傷ついている。やがて彼女は第一次大戦前、フランスのピアノメーカーの家に生まれた子ども時代からいままでの人生を回想。そこへ忌まわしい過去が襲いかかり、昔の事件の渦中にふたたび巻きこまれる。当初はゆるやかなテンポだが、エレーヌの秘めた謎といじらしい姿が興味をつなぎ、過去と現在が交錯するなか、事件の概要が見えてきたところで一気に加速。終盤は、雪の原野を犬ぞりで進む冒険物語と、被告エレーヌをめぐって弁護側と検察側が火花を散らすリーガル・サスペンス。設定に甘さがあり、絶体絶命の窮地と大どんでん返しという点でやや物足りないが、エレーヌに手を差し伸べる善良な人たちの善意はどこまでもハートウォーミング。一服の清涼剤といえよう。