ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Susan Minot の “Evening”

 先週末までずっと寝込んでいた。インフルエンザではなかったが高熱が続き、これを書いている今もまだ微熱がある。亡父もやはりこの時期に風邪をこじらせ、二月になって最初の脳梗塞を起こしたことが思い出され、少し不安だ。
 寝床で本を読むのは疲れるものだ。とくに洋書の場合、ぼくはメモを取りながら読むことにしているので無理。今回もあきらめ、ちょっと気分がいいときに『一瞬の風になれ』を読んでいた。とても面白く、疲れたが完読してしまった。現代風にアレンジしたスポ根青春小説といったところか。
 おととい寝床を離れたものの、メモを取る気力はなかった。終日ジャズを聴きながら、『夜は短し歩けよ乙女』をパラパラ。断片をまとめたような構成なので、途切れ途切れに読むのにちょうどいい。
 きのうは少しだけ "Sword of Honour" を読んだ。文脈を思い出したところでダウン。前回の記事にも ebikazuki さんからスターを頂戴したのに、ほんとに申し訳ない。早く風邪が治るといいのだけれど。
 というわけで、きょうは本ブログでは未公開(確認済み)の昔のレビューでお茶を濁すことにした。原書はもう処分してしまったが、Wiki によると1998年の作品である。 

Evening (Vintage Contemporaries)

Evening (Vintage Contemporaries)

 

[☆☆☆★] 正確には星3つだが、作者の力わざに敬意を表して少しおまけ。力わざとは、月なみな物語を読みごたえのある作品に仕上げた手練手管、創意工夫をいう。主人公は死の床にある老婦人。その脳裡に去来するのは、娘時代に男と出会って恋をしたときの、たった数日間の思い出……。老練な読者ならずとも、途中の展開も結末もおおよそ察しのつく話だ。けれどもマイノットは、過去と現在、夢と現実を交錯させながら描くという定番の手法にくわえ、老婦人の混濁した意識を反映させるためだろう、フォークナーばりの「意識の流れ」の技法をも採用。そのくだりではむろん物語の進行速度が鈍るものの、小刻みな場面転換によって緩急の妙が生まれ、ついページをめくってしまう。一期一会にして永遠の恋人というテーマは、書きようによっては平凡なロマンスになってしまうものだが、工夫次第でまだまだ読者の感動を呼ぶという好例である。