ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andrew Sean Greer の “Less”(1)

 今年のピューリッツァー賞受賞作、Andrew Sean Greer の "Less"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] おれの、わたしの人生、まんざら捨てたものではないかも、と読後に思いたくなる佳編。長らく同棲していた相手がべつの男と結婚。式への招待を断り、スケジュールを調整して世界一周の旅に出かけたゲイの二流作家、レスが、行く先ざきでドタバタに近い不条理な悲喜劇に遭遇する。50の坂が間近に迫り、仕事も恋愛もままならず、昔の苦い思い出がよみがえるだけの孤独な男だが、この陳腐な人物像が意外におもしろい。ユーモラスな会話とこっけいな事件に哀感が混じり、過去と現在の交錯するカットバックや視点変化も鮮やかで、最後、京都嵐山の料亭の一室に閉じこめられたレスがみごと「脱出」するシーンなど、おかしな状況としても、彼の将来につながるメタファーとしても秀逸。エンディングに向かって冒頭から少しずつ伏線が巧みに張られている点も高く評価したい。「人生、まんざら捨てたものではない」とは万人共通の願いかもしれない。