本書のピューリッツァー賞受賞は意外と思った人が多いかもしれない。P Prize. com の直前予想では泡沫候補扱いだったからだ。
本命視されていたのは、昨年の全米図書賞受賞作、Jesmyn Ward の "Sing, Unburied, Sing"(☆☆☆★★)。ついで、今年(対象は昨年)の全米批評家協会賞受賞作、Joan Silber の "Improvement"。3番人気は同賞最終候補作、Alice McDermott の "The Ninth Hour"(未読)。まず順当な予想だったと言えよう。
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ところが、そうした有力候補を差し置いて栄冠に輝いた "Less" は、かろうじて第10位にランクイン。恥ずかしながら、ぼくは聞いたこともない作家の作品でした。
読みはじめた当初は、なんだ、こんなものでピューリッツァー賞か、と見くびっていた。「50の坂が間近に迫り、仕事も恋愛もままならず、昔の苦い思い出がよみがえるだけ」という主人公レスの人物像が陳腐だったからだ。
けれども、読み進んでいくうちに印象が変わった。その「陳腐な人物像が意外に面白い」。その面白さは多分に、レスが「ドタバタに近い不条理な悲喜劇」に巻き込まれることに起因している。それから、カットバックや急な視点変化などの技法もおみごと。
とはいえ、圧倒的にいいのは、やはり幕切れでしょう。ネタを割るわけには行かないが、「おれの、わたしの人生、まんざら捨てたものではないかも、と読後に思いたくなる」はずだ。
ただ、邦訳は出ないかもしれない。ゲイ小説だからだ。もう十年以上も前の話だが、2004年のブッカー賞受賞作、Alan Hollinghurst の "The Line of Beauty"(☆☆☆)に翻訳の見込みがないのは、それが理由と聞いたことがある。
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ただ、後年、同書を読んでみるとつまらなかった。Hollinghurst のものなら、2011年の "The Stranger's Child"(☆☆☆★★)のほうが面白かった。
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邦訳があるかどうかは未確認だが、ぼくのオススメ、ゲイ小説は下の2冊。Aciman 作品が2007年刊で、Greenwell のほうは2016年刊。2つのレビューを読みくらべると、ぼくの中でもゲイ小説は市民権を得たことがわかる。"Less" は3冊目のオススメということになります。"The Stranger's Child" もいれると4冊目。
追記1:"Call Me by Your Name" は2018年に映画化され、アカデミー賞にノミネート。10年以上の時の流れが市民権の歴史を感じさせますね。また、Greenwell 作品は2016年のロサンゼルス・タイムズ紙文学賞の最終候補作でした。
追記2:2020年のブッカー賞最終候補作、Brandon Taylor の "Real Life" をオススメに追加しました。
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