ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Michael Ondaatje の “Warlight”(2)

 これは今年のブッカー賞ロングリストの発表以前から、現地ファンのあいだでは下馬評が高かった。あまり当たったためしがないと記憶する William Hill の予想でも一番人気。オッズどおり、ショートリスト入りも確実かもしれない。
 が、ほんとにそんなにすぐれた作品なのかな、というのがぼくの率直な感想です。前作 "The Cat's Table"(2011 ☆☆☆★)よりはずっといいけれど、ゴールデン・ブッカー賞に輝いた代表作 "The English Patient"(1992 ☆☆☆☆)とくらべると明らかに落ちる。という感想をお持ちの Ondaatje ファンも中にはいるのでは。
 一方、作品のよしあしではなく、好き嫌いという点で言えば、ぼくもけっこう好きな作品です。"The English Patient" のほうがもっと好きだけど。
 そこで思い出すのが、「好き嫌いによって評価が分かれる」という表現。ぼくも何度か使った憶えがあるけれど、最近はなるべく避けるようにしている。作品の評価と個人的な趣味はべつに同じであってもいいが、いつも同じでは困る、とも思うからだ。
 英米だけに話を絞っても、イギリスなら少なくとも Shakespeare 以後、アメリカなら Melville 以後の長い文学の伝統と歴史を考えれば、くどくど説明するまでもないだろう。自分の好みではないが文学的に高く評価すべき作品、というのはたしかに存在する。ってのがぼくの立場です。
 "Warlight" でぼくがいちばん惹かれたのは、「ノスタルジーにあふれ」た「詩的な情景描写」。「各シーンの叙情を味わうべき作品。過ぎ去った青春への挽歌としては佳編」とレビューを締めくくったけれど、ほかにも美点は多い。☆☆☆★★という評価のわりに、本文ではけっこうホメています。一番人気というのもよくわかる。
 "The Cat's Table" でガックリきたのは、「いささか散漫な構成」で「盛り上がりに欠け、焦点のぼやけた経験しか伝わってこない」ところ。"Warlight" も「焦点が定まり切れていない」憾みはあるものの、"The Cat's Table" ほどではない。前作の欠点をよく克服していると思います。
 けれども、「どの話もよく出来ていて心の琴線にふれるのだが、強烈なインパクトには欠ける」。その点、"The English Patient" のほうがはるかに強烈だったのではないでしょうか。
 同書を読んだのはまだレビューらしきものを書き始める前のことで、点数はあとから思い出して付けたもの。いま読み返したら、★をひとつ追加ってことになりそうな気もします。
 ちなみに、同書とならんで1992年のブッカー賞を受賞したのが Barry Unsworth の "Sacred Hunger"(☆☆☆☆★)。いまのところ、2作受賞というのはこの年だけで、当時の選考委員の評価も二分したという記事をどこかで読んだ憶えがある。先日、「ぼくのゴールデン・ブッカー賞」に選んだとおり、ぼくは "Sacred Hunger" のほうがすぐれていると思う。
 ただ、「好き嫌いという点で言えば」、"The English Patient" のほうがゴヒイキかもしれない。ここで上の低次元の文学論に戻ります。
(写真は、愛媛県宇和島市佛海寺。実家の菩提寺で、市内最古の歴史を誇るそうだ。今年は帰省できなかった)