ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lisa Halliday の “Asymmetry”(2)と Sigrid Nunez の “The Friend”(2)

 おとといの昼間、ジムで走りすぎたあと、同夜は元同僚と再会、ほぼ一年ぶりに飲みすぎてしまった。おかげで、きのうは膝が痛いうえに二日酔い。炬燵の中でぼんやり過ごしていたら、夕方になって大事件発生!
 詳しくは書けないが、とにかく諸般の事情というやつで、定年退職してちょうど一年になる元勤務先に復帰することになってしまった。むろんテンプだし、一年間だけという話なのだけれど。
 飲み会でも、退職後の生活の総括として、予想外の出費がある、意外な出来事が起こる、と話したばかり。それがまさか、その翌日にこんなことになろうとは。まっこと一寸先は闇、としか言いようがない。
 ってことは、「およそ人生は『非対称』の世界であり、ひらたく言えば、矛盾と混乱に充ち満ちている」。Lisa Halliday の "Asymmetry" のレビューの書き出しである。

 これはご存じのとおり、ニューヨーク・タイムズ紙が選んだ去年のベスト5小説のひとつだし、読んでいて実際けっこう面白かったのだけど、いまはもうあまり印象にのこっていない。Everything is an accident. Life is one big accident.(p.255) It's human nature to try to impose order and form on even the most defiantly chaotic and amorphous stuff of life.(p.269)といったくだりがテーマに関係ありそうですな。これを踏まえてレビューをでっち上げました。
 一方、去年の全米図書賞受賞作、Sigrid Nunez の "The Friend" のほうは、"Asymmetry" と同じ時期に読んだのに、いまでもよく憶えている。(両書のレビューにスターを付けてくださった brownsuga さん、ありがとうございます)。 

 全米図書賞といえば、一時期、つまらない作品ばかり選ばれていたような記憶があるが、最近はそうでもなさそうだ。とにかく、これは「文学、自殺、そして動物とのふれあい」など、「テーマに直結した興味ぶかい逸話」が満載。テーマそのものより、むしろそうした豆知識のほうが面白かったくらいだ。
 たとえば、室内で飼っているウサギにどんな音楽を聴かせたらいいか。Cheerful? Mellow? Fast, or slow? .... How abour some Schubert? (Oh, maybe not Schubert, whose pen, in the words of Arvo Pärt, was fifty percent ink, fifty percent tears.) How about Miles Davis's Bitcthes Brew?(p.98)
 このシューベルトの話はどこかで読んだような気もする。が、それがアルヴォ・ペルトの言葉だとは知らなかった。シューベルトの嘆き節については、ぼくもたまたま今年、何かの記事で書いたばかり。その嘆き節にアルヴォ・ペルトが言及していたとは。二人の音楽には「死」という共通項があるかもしれない。ぼくはその昔、まる一ヵ月、「タブラ・ラサ」ばかり聴いていたことがあるだけに、上のくだりには思わず目が釘付けになってしまった。 

ペルト:タブラ・ラサ

ペルト:タブラ・ラサ

 

 マイルズ・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」のほうは、なんだかヘンテコリンな感じであまり好きではない。でも、ネクラなシューベルトのあとに「カインド・オブ・ブルー」を続けると、さらに暗くなってしまう。だからきっと「ビッチェズ・ブリュー」なんだろうな。
 などなど、本書は、紹介されたエピソードをきっかけに、読者もどんどん脱線してしまいたくなる作品である。レビューには書けなかったが、そこがいい!