ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Laird Hunt の “Zorrie”(1)

 きのう、今年の全米図書賞最終候補作、Laird Hunt の "Zorrie" を読了。発表(ニューヨーク時間17日)直前の下馬評では1番人気の作品である。さっそくレビューを書いておこう。

Zorrie

Zorrie

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[☆☆☆★★] この世には、天下国家、政治や経済など大きな問題にはいっさいコメントせず、ただ黙々と自分の仕事に励んでいるひとがいる。いや、きっと多いのではないか。本書はそういうサイレント・マジョリティの一員である女性の生涯を、アメリカの原風景のなかで、アメリカ人の生きかたの原点として描いた佳作である。20世紀なかば、中西部の田舎町で一生を送ったゾリーは勤勉、誠実、純真そのもの。幼いころに両親を亡くし、厳格な伯母に育てられ、時には野宿生活をしいられながらも、工場勤務ののち農家に嫁ぎ、子宝には恵まれず、夫の死後農場経営に着手。折々の喜びと悲しみ、悩み、惑いが抑制された筆致で淡々と綴られていく。あざとい小説技法は皆無。人びとの善意と隣人愛を物語るハートウォーミングなエピソードや、「胸中の空洞」を映しだした心象風景などが織りあわされ、上のような徳目をそなえたゾリーの人生が静かに浮かびあがる。それが古き佳き時代の物語であるところに、原点を思い出せ、という現代アメリカ人へのメッセージを読み取ることもできよう。テーマ的にも、人種差別やLGBT、マイノリティなどの問題であふれる昨今のアメリカ文学にあって、久びさに出会った政治とは無関係の作品。干天の慈雨とはいわないまでも、一陣の涼風を感じさせる好篇である。