ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2022年全米図書賞発表

 本日、全米図書賞の発表があり、小説部門で Tess Gunty の "The Rabbit Hutch"(2022)が栄冠に輝いた。あちらのファンの情報をもとに、たった1冊だけ読んでいた最終候補作が受賞とあって、なんだか、ひとのフンドシで相撲を取ったような気分だけど、とりあえず、ひと安心。
 2日の記事と重なるが、Tess Gunty はロス在住の新人女流作家で、デビュー作の本書は今年創設された Waterstones Debut Fiction Prize もすでに受賞。どれだけ権威のある賞なのかは不明だが、"The Rabbit Hutch" がそれなりに評価の高い作品だったことだけはたしかだろう。
 本来なら、きょうにも落ち穂ひろいをすべきところだが、まだちょっとその準備ができていない。レビューの再アップでお茶を濁しておこう。

The Rabbit Hutch: SHORTLISTED FOR THE WATERSTONES DEBUT FICTION PRIZE

[☆☆☆★★] インディアナ州のさびれた田舎町の築古マンション〈ラビット・ハッチ〉。才色兼備の孤独な娘ブランディンがそこで十代の少年たちとルームシェアするようになったいきさつは、よくある疾風怒濤の青春物語といえばいえるのだが、この作家、ただ者ではない。ひとつひとつの単語の選定にはじまり、文章の構成、エピソードのちりばめかた、視点の変化など、叙述表現に非凡な創造力がみなぎっている。マンションの住人たちの人生は十人十色。ブランディンとかかわったり、かかわらなかったり、それぞれの生活からアメリカの日常風景が見えてくるという設定も類型的なのに、読ませる。やはり組み立てがうまく、パワフルな描写でどの人物も躍動。文学が言語芸術であることをあらためて思い知らされる作品だ。いま、そこに生きている少女ブランディン。その涙、その苦しみが台風の目であり、周囲の人びとも渦まく嵐のなかで必死に生きている。大型新人作家の登場である。