今年の全米図書賞最終候補作、Tess Gunty の "The Rabbit Hutch"(2022)を読了。Tess Gunty はロス在住の新人女流作家で、デビュー作の本書は今年創設された Waterstones Debut Fiction Prize を受賞。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] インディアナ州のさびれた田舎町の築古マンション〈ラビット・ハッチ〉。才色兼備の孤独な娘ブランディンがそこで十代の少年たちとルームシェアするようになったいきさつは、よくある疾風怒濤の青春物語といえばいえるのだが、この作家、ただ者ではない。ひとつひとつの単語の選定にはじまり、文章の構成、エピソードのちりばめかた、視点の変化など、叙述表現に非凡な創造力がみなぎっている。マンションの住人たちの人生は十人十色。ブランディンとかかわったり、かかわらなかったり、それぞれの生活からアメリカの日常風景が見えてくるという設定も類型的なのに、読ませる。やはり組み立てがうまく、パワフルな描写でどの人物も躍動。文学が言語芸術であることをあらためて思い知らされる作品だ。いま、そこに生きている少女ブランディン。その涙、その苦しみが台風の目であり、周囲の人びとも渦まく嵐のなかで必死に生きている。大型新人作家の登場である。