きのう、Sarah Waters の "Affinity"(1999)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] タイトルはいわゆるソウルメイトの意。書中でそう説明されたとき、はたして心の友は存在しうるのか、と疑問に思ったものだが、それがまさか結末につながろうとはとんと気づかなかった。よくできた歴史ミステリである。舞台は19世紀後半、ヴィクトリア朝時代のロンドンの上流家庭と女子刑務所。孤独な娘マーガレットが刑務所を再三慰問するうち、服役中の霊媒師セリーナと親交を結ぶようになる。その経緯をしるしたマーガレットの手記と、セリーナが二年前に起こした事件の記録が並行して進む展開で、降霊術や超常現象などゴシックロマン、怪奇小説ふうの逸話もあるものの、途中は山場が少なく盛り上がらない。それがソウルメイトのくだりになったとたん、物語は一気に加速する。「愛は完全であってはならない」と宣しながら愛の実証を生涯つかもうとしつづけたロレンスの二律背反を思えば、本書の愛の構造はすこぶる単純。ヒースクリフの宇宙的激情もないがゆえに愛そのものも平凡。とそんな難癖をつけるのは筋ちがいで、これはあくまで娯楽小説と割り切って読むべきだろう。ストーリーテリングと人物描写は堅実で、終幕直前までの退屈な流れが急展開の布石となっている点もいい。単純かつ平凡な物語が最後にツイストを効かせる佳篇である。