ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ling Ma の “Bliss Montage”(2)

 きょうは Cleaning Day。掃除はぼくの係。体調不良のあいだサボっていたので、何日ぶりだろうか。週末にドラ娘が帰ってくる。目につくところだけでもキレイにしておかないと、と思って重い腰を上げた。
 さて表題作。ご存じ今年の全米批評家協会賞受賞作だが、最終候補作には既報のとおり、われらが Mieko Kawakami の "All the Lovers in the Night"『すべて真夜中の恋人たち』(2014)もノミネートされていた。
「われらが」と書いたが、同書もふくめ彼女の作品はどれも未読。日本の現代文学全般についても、数年前、主な作家の主な作品をコレクトしたきり、本屋大賞関連のものを除いてほとんど積ん読だ。『すべて ... 』もそのひとつだった。

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

 三ヵ月ほど前から枕元においている『猫を抱いて象と泳ぐ』も挫折。どうも寝床読書に長編はむかない。『海辺のカフカ』なんて、一年以上もかかったものだ。そこで『絶叫城殺人事件』に乗り換えたところ、これはいい。これくらいの長さで、しかも話がおもしろいとなると、つぎの夜でもすぐに展開や人物関係を思い出し、三日めには一話読了。ひさしぶりのミステリというのもページが進む要因か。
 表題作も短編集だが、メモを頼りにふりかえってみよう。印象にのこっているのはまず、第二話の 'Oranges'。ヒロインの若い女「わたし」がひさしぶりに元カレの Adam  を街で見かけ、あとをつけると新しい恋人 Beth と同棲中。なんとそのアパートに「わたし」は乗り込み、その昔、Adam からひどいDVを受けたこと、Adam はDVの常習犯であることを暴露する。After I laid out his secret history to Beth, knowing that it probably wouldn't do anything, I looked at him and he looked back at me. ... I continued as Beth's face changed, as Adam jerked away my place mat, and all the dishes and cutlery crashed to the floor, as someone protested, "But I know who he is," and then, "But people can change," just as the other said, "Leave now."/ But in the moment before he persuaded her back to his side, he looked at me. I didn't know what I wanted until I saw it. It was such an open expression, a child's face. He didn't look angry or bitter or violent. Nor did he look guilty or remorseful or ashamed. He just looked trapped.(p.47)
 なかなか鮮やかな幕切れだ。が、「各話とも結末はあいまいで、読者の想像にゆだねる自由解釈式。それが深い余韻をのこす場合と、そうでない場合とがある」。この 'Oranges' は前者のほうだろう。ちなみに、本書の表紙もオレンジの写真だ。(この項つづく)