ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Anne Michaels の “Held”(1)

 数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Anne Michaels の "Held"(2023)を読了。Anne Michaels(1958 - )はカナダの詩人・小説家で、本書は小説第三作。第一作の "Fugitive Pieces"(1996 ☆☆☆★★★)は1997年のオレンジ賞(現女性小説賞)受賞作で、『儚い光』というタイトルで邦訳も出ている。(同書についての拙文はなく未読かと思ったが、EXCELの読書記録をチェックしたところ、「詩人の伝記」という一口メモを発見.。いやはや)。
   体調不良につき、いつにもましてボチボチ読んでいたうえ、読後も気分がすぐれず、いまだにすっきりしない。はて、どんなレビューもどきになりますやら。

[☆☆☆★] 作者の小説デビュー作をもじっていえば、「過ぎ去る一瞬の断片集」。第一次大戦から現代まで、およそ百年にわたって時間をさかのぼったり、くだったり、場所も英仏各地やエストニアフィンランドなどを転々、語り手・視点もつぎつぎに変化しながら、各人物の目に映る光景、脳裡にうかぶ記憶や想念が、おおむね途切れ途切れに、あるかなきかのごとき脈絡で続出する。叙情的な散文詩と、観念的で晦渋な瞑想がないまぜになったような世界で、その文脈をたどることは容易ではないが、心霊写真や、かのキュリー夫妻も参加する降霊術の会のエピソードなどがしめすとおり、大略は、愛と死。戦争や過酷な国情のため生き別れ、死に別れた愛する家族への深く悲しい思いが随所に凝縮されている。物語性はほぼ皆無。読者によっては、自身、亡きひとを「抱きしめた」思い出がよみがえるかもしれない「人生の断片集」である。