ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kate Atkinson の “When Will There Be Good News?”(1)

 何とか読み終えた。今まで2回にわたって書いた雑感の続きだが、簡単にレビューをまとめておこう。

When Will There Be Good News?: (Jackson Brodie)

When Will There Be Good News?: (Jackson Brodie)

[☆☆☆☆] のどかな田園生活で幕があいたかと思うと一転して惨劇が発生。さらに一転して30年後の物語が続くという序盤から心臓をわしづかみにされる。新たな事件が起こりそうな予感がして、事実その予感は的中するも、予想外の結末にしばし呆然となる。絵に描いたようなスリラー小説の展開だが、途中経過は決して型どおりではない。犯罪をはじめ、事故や病気、自殺、離婚などにより、肉親や配偶者、恋人、友人を失った人間が数多く登場し、新たな出会いを通じて自分の過去をふりかえる。愛する人の面影、目にした光景、起こった出来事が、日常的な現在の事実と重ね合わされる。同じエピソードが複数の視点から描かれ、複数の人生が次第に浮かびあがってくる。当然、幾筋もの話の流れがあるが、性格描写、心理描写が精緻を極め、どれも単なる本筋の添え物とは思えない。それどころか、そこには過去と過去のせめぎ合いが現在なのだというテーマさえ見てとれる。やがてその相克から、新たな別離が生まれる。ひたむきな愛、献身的な愛が描かれる一方、別れのブルースも流れている。人生とは、愛と別れの繰り返し。そのことをずしりと重く感じさせるクライム・ノヴェルである。難易度の高い語彙も散見されるが、総じてとても読みやすい英語だと思う。