えらくもったいぶってしまったが、ここでようやく「ほかにもっと書きたいこと」を明らかにしておこう。それは次の2点に絞られる。
1.この平和な国で、本書のように外国の悲惨な歴史が描かれた小説を読む意味は何なのか。また、それを点数で評価する意味とは?
2.一般にあまり知られていない(と思われる)悲惨な歴史が描かれている点をどう評価するか。そのことだけで、小説として得点材料となりうるのか。
どちらから書こうかな。第1点は、煎じつめると、ぼく自身の本の読み方、ひいては人生の生き方にかかわりそうだ。これはヤバイ。今日はまず、比較的簡単そうな第2点についてだけ考えてみることにしよう。
たとえばホロコースト物なら、これはもう今さら言うまでもなく、それこそゴマンとある。それゆえ、扱われている史実そのものには決して鈍感であってはいけないけれど、小説としては単純に、その出来不出来だけで判断してもヒンシュクは買わないだろう。
では、それが知られざる悲劇の場合はどうなのか。本書のように、ホロコーストと並んで「二十世紀の人類社会に例を見ない凄惨な計画」でありながら、明らかにホロコーストほど有名ではない「ジェノサイド」が題材であれば、そのことだけで、すぐれた小説たりうるのか。
…という書き方からして、ぼくの立場はすでに明らかだろう。「ここではホロコーストやスターリンによる弾圧を扱った小説などと同様、屈辱と恐怖、暴行、殺人、強制労働、劣悪な生活環境、むき出しのエゴ、そして協力と友情、愛情、かすかな夢と希望が描かれる。つまりどれも『想定内』の出来事で、決して目新しくはない」。
ぼくのレビューの一節だが、それをぼくはこう結んでいる。「定石どおりながら、愛の美しさ、別れのつらさは痛切に胸に響き、作者の後記にも粛然となる。これでもっと緻密な描写だったら、と惜しまれる」。
この最後の一文を書き添えたとき、ぼくの頭には、たまたま昨年、マイベスト10小説のひとつに選んだ Julie Orringer の "The Invisible Bridge" が思いうかんでいた。
The Invisible Bridge (Vintage Contemporaries)
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…えらく引っぱりますが、数少ないリピーターの方ならご承知の事情で、今日はもうおしまいにします。