ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Rock の “My Abandonment”

 去年のオレンジ賞受賞作の一つ、Peter Rock の "My Abandonment" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

My Abandonment

My Abandonment

[☆☆☆★] 冒頭から終幕近くまではかなり面白かった。主な舞台はオレゴン州ポートランド。13歳の少女が郊外の森林公園の中で父親と一緒になぜか人目を避け、身分を隠しながら暮らしている。少女の一人称一視点から描かれるこの不思議な野外生活の模様は、メルヘンのような味わいもあってじつに魅力的だ。2人が警察に保護されるくだりなどサスペンスに満ちている。その後、親子はいったん農場で生活しはじめるものの、やがて放浪の旅に出かける。序盤からこのあたりまでは明らかにロード・ノヴェル、そして冒険小説だ。大自然の中で、時には町中で、2人が何から逃れようとしているのか明示されないまま続く逃避行。ミステリアスな雰囲気が興味をそそり、吹雪に見舞われたり、危険な相手に襲われたり、といった手に汗握るシーンがあって目が離せない。ただ、結末にはがっかりした。終わってみれば現代版『森の生活』と言える作品かもしれないが、ソーロウのように思想的な基盤があるわけではなく、主人公の少女がなぜ自然の中で暮らしつづけるのか今ひとつ明確でない。ロード・ノヴェルと冒険小説の部分まで本当に楽しかっただけに残念だ。語り手が少女ということで英語はとても読みやすい。