ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

John Irving の “In One Person” (1)

 ジョン・アーヴィングの最新作 "In One Person" をやっと読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

IN ONE PERSON

IN ONE PERSON

In One Person

In One Person

[☆☆☆★★] 神ならぬ人間に完全な愛はなく、それゆえ完全な相手や伴侶もいない。ところが人間はそのことに満足できず、至上の愛を、最高の相手を求める。そこに悲劇が生まれ、喜劇も生まれる。この古びたテーマが小説巧者アーヴィングの手にかかると、かくも新鮮な味わいを帯び、かくも現代的な問題として迫ってくるものかと、まずそのことに感心する。おもな舞台はヴァーモント州の田舎町。老作家が1960年代初め、全寮制の男子校の生徒だったころの回想をはじめる。例によってドタバタ調のコミカルなエピソードが連続し、またシェイクスピアやジェイムズ・ボールドウィンなどの作品が巧みに挿入されるうち、次第に主人公ウィリアムの禁断の性癖が明らかになる。彼は町の図書館の美人司書にひと目ぼれしたかと思うと、先輩のレスリング部の少年にもあこがれるバイセクシュアルだったのだ。以後、男女とりまぜウィリアムの性的体験の相手が次々に登場し、やがて中盤、前半では伏せられていた人物関係が一気に明らかにされる。このあたり、笑いを禁じえない悲劇ということでアーヴィング節、絶好調だ。それが後半、エイズの話題が中心になると深刻な様相を呈するものの、そこでもコメディー調を忘れず狂騒劇となるところがアーヴィングらしい。エキセントリックな人物が登場し、奇想天外な物語が進行するうちに上記のような文学的テーマが示される、といういつものパターンだが、旧作とくらべると奇想が足りず、ホモ・レズ話の連続に食傷するのも難点。とはいえ、バイセクシュアルゆえの悩みに人間存在の問題が誇張して描かれている点が秀逸である。英語は医学用語など語彙的にはむずかしめのわりにテンポがよく読みやすい。