今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、Sarah Waters の "The Little Stranger" を何とか読みおえた。さっそく、いつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆☆] 第二次大戦後まもないイギリスの田舎の古い館にまつわるゴースト・ストーリー。ミステリアスな雰囲気が少しずつ醸成され、さりげなく伏線が張られるうちに、やがて奇怪な事件が起こる。前半は悠々たるペースで物語が進み、一家の歴史や、財政事情の悪化で荒廃の一途をたどる屋敷のようす、ヒロインの娘をはじめ登場人物の性格などがじっくり描かれ、これが英文学の伝統をしっかり受け継いだ作品であることがわかる。幽霊話にロマンスもからみ、終盤、畳みかけるように事件が連続、一気に盛り上がる展開も定石どおりで堅実そのもの。怪奇現象の種明かしを聞くまでもなく、この屋敷この人物たちなら、こんな話になって当然、と思わせるだけの説得力がある。が一方、その謎は人生の根本問題にかかわるものではなく、娘に恋をした男の悩みもありきたり。よろず表面的な現象のみ扱われ、よく出来たゴースト・ストーリーではあるが、ただそれだけ。作家サラ・ウォーターズの限界を露呈した作品といえる。