ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Thousand Autumns of Jacob de Zoet”雑感(2)

 今日は暑い、この本も厚い、などと親父ギャグを考えているうちに、だんだん面白くなってきた! 正直言って、これはおそらく熱心な Mitchell ファンでもないかぎり、最初は多少の忍耐を要する作品だと思う。が、それでもしばらく我慢して読んでいると次第にその世界に引きこまれていく。
 不満な点はまだいくつかある。まず、こんなに短いパラグラフの多い小説を読むのは初めて、と言っていいほど改行が多い。そのため、いわば「線よりも点」が重視され、点景こそ描かれてもストーリーの流れが悪くなっている。鬼才 Mtichell のことだから確かな計算にもとづいてこういう文体を選んだのだろうが、もちろん長いパラグラフもあって、そこでは明らかに流れは円滑だ。総じてリズムに変化があるというより、ぎくしゃくした印象を受ける。
 次に、以上の文体と関係があるのかもしれないが、必要以上に細部を作りすぎているのではないか。舞台が18世紀末、東洋の島国日本で、主人公がオランダ人という英米人にはなじみの薄い設定を考慮した結果なのだろうが、たとえば日本人が発音したオランダ語?と原音のズレを戯画的に示した会話など、最初のうちこそニヤっとするものの、そのうち読んでいて煩わしくなる。英米人ならエキゾチックに感じるのかもしれないが、Mitchell はそんな効果を期待するような作家だったのかな。
 以上の「ハンディ」を我慢して読んでいると、前回紹介したようなコミカルなエピソードのほかにも、少しずつ面白い話が出てくる。Jacob はキリシタン禁制の日本に滞在しながらも敬虔な信者で、故国オランダに残した愛する女性のことを思いつつ、出島で見そめた日本人の若い娘 Orito に恋心をいだく純情な青年。一方、商館長の命を受け、日本人通事 Ogawa の協力を得ながら過去の帳簿を点検、同僚の反感を買うものの機転をきかして対処し、誠実に職務を遂行していく。と、そこへ…。
 今日は第2部の途中まで読み進んだが、ふりかえると第1部の不必要とも思えるほどの細部は、舞台の雰囲気作りに加え、Jacob のキャラ作りもねらってのことなんだろうな。異人さんと日本人娘の恋愛話なんて今さら…と斜に構えていると、第1部の終幕あたりで物語が急に走りだし、俄然盛りあがってくる。そのとき、いつのまにか Jacob に感情移入しているのは綿密な人物造形のたまものなんでしょう。