ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Maile Meloy の “Both Ways Is the Only Way I Want It”(2)

 先週映画三昧だったツケで、今週はかなり忙しい。おかげで落ち穂拾い的な感想も、読後から1日おいて書く羽目になってしまった。
 さて、しばらく文芸エンタメ路線、ストーリー重視型の小説を追いかけていたので、久しぶりにマジメ系に戻ろうと思って取り組んだ本書だが、これは去年、ニューヨーク・タイムズ紙の年間ベスト5小説に選ばれただけあって、まあ純文学と言っていいだろう。レビューに書いたとおり、「いろいろな矛盾をかかえて生きる人間の戸惑い、心のさざ波が静かに伝わってきて味わい深い」作品である。
 この短編集の主人公たちはそれぞれ、「純粋な愛情と動物的な欲求、激しい衝動とそれを抑えようとする自制心など、矛盾した感情に引き裂かれ」たあげく、「やがて突発的に行動を起こす。あるいは一方、何もしないという決断をくだす」。その心の揺れ動きはまさしく人間的な生の現実であり、それを新鮮な文体で描いたところに本書の美点がある。
 ただ、これを読みながらふと思ったのだが、そういう見事な感情表現はたしかにすぐれた「マジメ系」の構成要素のひとつではあるけれど、それだけでほんとうに「マジメ系」と言えるのだろうか。もしそうなら、文学とはしょせん感性の問題、フィーリングの次元に過ぎない、ということになりはしないか。
 事実、1日たった今、ぼくはもう本書の中身を忘れかけている。読んでいるときはすばらしいなあ、と思ったのに…要は強烈なインパクトを受けなかったのだ。なるほど人生にはそんな問題があるな、と目からウロコが落ちるような、もしくは思いを新たにするような作品ではなかったのである。こんな本ばかり読むんじゃない、という某先生のお叱りの声がまたもや聞こえてきそうだ。