ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Stephen Kelman の "Pigeon English" (2)

 これは結果的に、先週読みおえた Carol Birch の "Jamrach's Menagerie" と同じく、子供が大人へと成長する際の通過儀礼がテーマとわかり、どうしても両書を比較せざるをえない。Birch のほうは19世紀の海洋冒険を描いた歴史小説でもあり、回想形式だが、本書は現代のロンドンが舞台で、回想をまじえながらの実況中継。ざっとそんな違いはあるものの、どちらも通過儀礼に衝撃的な事件をからめている点では同じだろう。
 その事件と顛末についてはネタばらしになるので詳しく書けないが、衝撃度はまあ、似たり寄ったりかな。ただし、どちらも読みすすんでいくうちに予想される展開なので、実際は、お、来ましたね、といった「衝撃度」。
 内容的にも、両書とも本質的には通過儀礼という「古びたテーマ」に付け加えるものは何もない。「子供が困難に出会い、厳しい現実を知り、心を痛めながら、その現実に対処するすべを学ぶ」。「思春期特有の無邪気で未熟、しかし真剣な心がさまざまな現実と出会い、経験を重ねていく」。ぼくのレビューも型どおりでお恥ずかしいが、それぞれの文言を交換してもべつにかまわないくらいだ。
 表現技術や構成の巧みさという点では、どちらもけっこう水準を超えていると思う。本書の場合は昨日のレビューに書いたとおりだが、「鳩の扱い」について補足しておくと、これ、どんな意味があるのでしょうか。鳩の視点を導入することでテーマに深みが加わるならまだしも、ぼくの見るところ、ちょっとシュールな「彩りを添えている」程度。単なる小道具にすぎないような気がする。
 結局、「決して悪くはないのだけれど」、「こんなものでブッカー賞候補作なのか」という思いは最後まで消えなかった。採点すると、今まで読んだ5冊の候補作中、本書は第5位。それにしても、Julian Barnes の "The Sense of an Ending" を除くと、今年は今のところ、どうも心の底から感銘を受ける作品がない。つまり、ドングリの背くらべ。だから本書のショートリスト入りも、消去法で可能性がなくはない、といったところでしょうか。