ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011年ブッカー賞ショートリスト発表 (The Man Booker Prize for Fiction Shortlist 2011)

 ブッカー賞のショートリストが発表された。これを見ると、William Hill や Ladbrokes の最終予想で順位の高かった Julian Barnes と Carol Birch、A.D. Miller は入選しているが、Alan Hollinghurst と D.J. Taylor は落選。逆に、泡沫候補扱いだった Esi Edugyan と Patrick deWitt が滑りこんでいる。Stephen Kelman は Landbrokes では第6位だったが、William Hill では第8位だった。
 最新のオッズによると、William Hill も Landbrokes も同じ順位になっているので、以下、その順に並べておこう。ぼくが今まで読んだ中では、Julian Barnes が断トツですばらしい。なお、既読の作品のレビューはいずれも再録である。
1.Julian Barnes "The Sense of an Ending"

The Sense of an Ending

The Sense of an Ending

[☆☆☆☆] 絶品だ。老人が自分の人生をふりかえる小説にはすぐれた作品が多いが、これはその中でもひときわ心にしみる高峰のひとつだろう。ノスタルジックながら感傷を抑えた筆致で、静かな人生の省察に満ちあふれている。青春時代の自分を冷静に分析し、年老いた今の自分と重ねあわせる。昔の友人や別れた恋人の思い出が綴られるうちに、歳をとることの意味が伝わってくる。元妻や娘、孫の記述に、人生の断片的な真実がこめられている。一枚の写真の何と切ないことか。が、それを見る老人の目に涙はない。むしろ、読者のほうが自分のアルバムにも同じような写真が貼ってあることを思い出し、胸をかきむしられるのではないだろうか。やがて老人は、ある衝撃的な事実を発見する。その事実から全編をふりかえると、それまでさりげなく配置されてきた日常的なエピソードの重みがわかり、老人ともども、しばし茫然となる。それは本書がフィクションであることを実感する瞬間でもあるが、これほど個人の実人生に近い題材を見事にフィクション化した作者の力量には脱帽せざるをえない。すこぶる知的で透徹した文体にも読みほれてしまう。
2.Carol Birch "Jamrach's Menagerie"
Jamrach's Menagerie

Jamrach's Menagerie

[☆☆☆★★] 少年が冒険を通じて大人になる通過儀礼を描いた佳作。19世紀なかば、ロンドンの路上で主人公の少年が虎に咬まれ、奇跡的に助かるというショッキングな開幕の事件も、友人ともども捕鯨船に乗り組み、竜探しに出かける中盤のハイライトも当初は意味不明。初航海での船乗り生活や捕鯨シーン、そして「竜」の発見と捕獲など、どれもほとんど定番の内容ながら、先行きの読めない面白さがある。やがて船は竜巻に襲われ、少年たちはボートで太平洋を漂流することに…。これも定石どおりと思っていたら、とんでもない展開が待っていた。子供が困難に出会い、厳しい現実を知り、心を痛めながら、その現実に対処するすべを学ぶ。それが大人になることの意味のひとつだが、本書の場合、少年の体験は凄惨きわまりないものだ。それを通じて生と死、愛と友情の意味を実感する。古びたテーマだが、「当初は意味不明」に思えたエピソードをすべて、次第にこの凄絶な通過儀礼へと収斂させる手腕はみごと。難度の高い語彙も散見されるが、総じて読みやすい英語だ。
3.A.D. Miller "Snowdrops"
Snowdrops

Snowdrops

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4.Stephen Kelman "Pigeon English"
Pigeon English

Pigeon English

[☆☆☆★★] 衝撃の結末を期待していたら期待どおりだった。それゆえ意外な展開とは言えないが、それでも途中の構成は巧妙に仕組まれている。主人公はロンドンの高層団地に住む、ガーナ出身の11歳の少年。彼の1人称1視点で、まるでジグソーパズルのピースを少しずつ、それもまったく異なる絵柄の部分を同時に組み合わせていくように、家庭環境や学校生活、校外での友人たちとの交流などがコミカルに、かつ、きびきびと綴られる。中心の絵模様は、思春期特有の無邪気で未熟、しかし真剣な心がさまざまな現実と出会い、経験を重ねていく通過儀礼だ。ブレイクの詩集ほど哲学的な深みはないものの、これはまさに現代版『無垢と経験のうた』と言ってもいいだろう。冒頭、少年はある殺人事件の現場を目撃し、やがて大まじめにその捜査に乗りだす一方、団地で少年に助けられた1羽の鳩が少年の行動を見守るようになる。この鳩の扱いは必ずしも完璧ではないが、それでも少年の「無垢と経験のうた」を最後まで見届ける「証人」として、「衝撃の結末」に彩りを添えている。目新しい俗語も散見されるが、英語はかなり読みやすい。
5.Esi Edugyan "Half Blood Blues"
Half Blood Blues

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6.Patrick deWitt  "The Sisters Brothers"
The Sisters Brothers

The Sisters Brothers

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