ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick deWitt の “The Sisters Brothers” (1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Patrick deWitt の "The Sisters Brothers" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

The Sisters Brothers

The Sisters Brothers

[☆☆☆★★★] 映画にしても小説にしても、これほど愉快な西部劇に出会うのはそう何度もあるものではない。軽妙にして痛快、ユーモアとハードアクションが同居。しかも、お涙頂戴式ではないしんみりした味わいもある。ゴールド・ラッシュの時代、殺し屋の兄弟2人が、ボスに逆らった男を始末すべく、オレゴンからカリフォルニアへ。早射ちの名人でタフガイの兄と、不器用ながら人情の厚い弟。荒野を行き、決闘や酒場での大騒ぎ、娼婦とのからみ、インディアンの襲撃などおなじみのシーンもあるが、何と言ってもほら話に近い珍談奇談の連続が楽しい。凄惨な暴行や殺人が起きたあとにもユーモアが感じられ、爆笑もののドタバタ喜劇もあれば、人生への思いからふと哀愁を帯びることも。この転調の面白さと珍妙な事件の数々により、本書は西部劇の定型を打ち破った西部劇となっている。終盤のSFじみた砂金探しは、ほら話もきわまれりなのに、人生のはかなさをしみじみと感じさせる。おかしくておかしくて、やがてはかなきアウトローかな。英語は内容をよく反映したノリのいい文体で、難語も散見されるものの総じて読みやすい。