ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick deWitt の “The Sisters Brothers” (2)

 これはぼくのような西部劇ファンには、じつにこたえられない作品だ。たまたま最近、「マーヴェリック」と「シルバラード」を見たばかりだが、どちらも往年のジョン・フォードの諸作ほど完成度は高くないものの、それでも西部劇の醍醐味にあふれ、大いに満足した。「マーヴェリック」のお笑い場面など、本書のユーモア、ドタバタ喜劇と相通じるものがあるのではないか。
 昨日のレビューにも書いたとおり、野宿や決闘、インディアンの襲撃など、たしかに西部劇でおなじみのシーンが多いし、「早射ちの名人でタフガイの兄と、不器用ながら人情の厚い弟」という中心人物の設定も型どおりかもしれない。が、ここにはそれが定石であることを忘れさせる楽しさが満載で、これほどうまく仕上がっていると、重箱の隅をつつくのはヤボというものだ。
 まず、さながらトール・テイル集といったおもむきの「珍妙な事件の数々」に惹きつけられる。最後の砂金探しなど、よくよく考えれば「ほら話もきわまれり」で、そんなアホな、と言いたくなるが、それまでにいくつも面白おかしいエピソードを読んできているので、リアリティーなんぞクソ食らえ、と思ってしまう。
 次に「転調の面白さ」。ユーモアと哀調、ドタバタ喜劇と残酷な暴行・殺人シーンがちょうどうまい具合に配合されていることだ。「そんなアホな」と最初は思った砂金探しにしても、やがてスリル満点、ついで見るもおぞましい場面に早変わり。そして最後は「人生のはかなさをしみじみと感じさせる」のだから、一攫千金を夢見たゴールド・ラッシュの時代なら当然の話でしょ、などと「重箱の隅をつつくのはヤボというものだ」。
 というわけで、ぼくは本書を高く評価しているのだが、あちらのオッズを見ると、いちばん人気薄。たしかに、「おかしくておかしくて、やがてはかなきアウトローかな」なんていう作品がブッカー賞を取った記憶は、少なくとも既読の受賞作の中にはない。だから、とても面白かったんだけど、ちょっとどうかなあ…。
 ともあれ、今年の「ブッカー賞読書」もこれでおしまい。13冊の候補作のうち、合計9冊読みました。自分をチョッピリほめてやりたい気分です。