ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

A. D. Miller の “Snowdrops” (2)

 「これでほんとにブッカー賞の最終候補作なんですか、という気がしてならない」と雑感に書いたが、この第一印象は最後まで消えなかった。とにかくあまりにも話が見え見えで、平板な描写とあいまって、ぼくにはかなり退屈な作品だった。まあ、濡れ場だけはしっかり楽しみましたけどね。
 得点材料は何だろう? ぼくはレビューを書くとき、少しでも美点を拾うようにしているのだが、本書の場合、ちょっと思いつかなかった。どの人物も型どおりだし、主人公のイギリス人弁護士にしても、要するに感傷にひたっているだけで、痛切であるはずの思いが読んでいてさっぱり心に響いてこない。
 決定的にまずいのは、作者が人間性にかんする真実を照射するような観点から犯罪を描いていないことだ。そういうアプローチがなかったら、ただのエンタテインメントじゃありませんか。これ、決してエンタテインメントを貶める意味ではありません。ブッカー賞の最終候補作というからには、当然、何らかの文学性があるものと期待するのに、その期待がもののみごとに裏切られた理由を述べているだけです。
 しかもこれ、上に書いたように、「あまりにも話が見え見えで」、ミステリとしても出来がわるい。裏表紙には 'Reads like Graham Greene on steroids' という新聞評が紹介されているが、その昔、"The Confidential Agent" や "A Gun for Sale" などを夢中で読んだ者としては、提灯記事を書くのもいい加減にしてくれ、と言いたくなる。
 と、さんざんケチをつけてしまったが、去年、同様にぼくが最低の評価をくだした "The Finkler Question" が何と栄冠に輝いた例もある。今年もまた、この世には、まったく趣味の異なる人もいる、ということになるんでしょうか。