ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Suzette Mayr の “The Sleeping Car Porter”(1)

 きのう、昨年のギラー賞受賞作、Suzette Mayr(1967 - )の "The Sleeping Car Porter"(2022)を読了。 Mayr はカナダの女流作家で本書は6作目。小出版社の刊行作品を対象とした Republic of Consciousness Prize US/Canada の今年の候補作でもある。さっそくレビューを書いておこう。

The Sleeping Car Porter

[☆☆☆★★] 古来、人生は旅に、旅は人生になぞらえられてきた。1929年、黒人の青年バクスターもカナダ大陸横断鉄道の寝台車の客室係として、乗客や同僚たちのいろいろな人生模様を目撃。と同時に、いやおうなく自身の人生をふりかえらざるをえない。歯科医になる夢を実現すべく薄給とチップを貯金にまわし、差別と屈辱、過酷な勤務形態に耐える日々。なにかとトラブルを起こしたり難癖をつけたりする乗客や、意地のわるい同僚たちとのやりとりもおもしろいが、思わず引きこまれるのはゲイ体験。車内で発見したポルノはがきが捨てられず、昔といまの濡れ場もいりまじる。ほかにも要所要所、ドタバタ劇やハートウォーミングな場面がちりばめられ、上々の仕上がりとなっているが、夢ある青年のトラヴェローグという定型のなかにまとまりすぎてパンチ不足。SFファンで想像力豊かなバクスターが見る幻覚にしても、趣向はいいのだが、物語全体をふくらませるほどの光彩を放っていない点が惜しまれる。