ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Eric Dupont の “Songs for the Cold of Heart”(1)

 2018年のギラー賞最終候補作、Eric Dupont の "Songs for the Cold of Heart"(2012)を読了。カナダのファン投票では第1位に選ばれた作品である。さっそくレビューを書いておこう。 

Songs for the Cold of Heart

Songs for the Cold of Heart

  • 作者:Dupont, Eric
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: ペーパーバック
 

 [☆☆☆★★] 大団円とは、すべてが丸くおさまる結末のことだが、本書の場合はおさまりすぎ。正確には、作りすぎ、まとめすぎ、盛り込みすぎの大団円である。この終幕はほんとうに惜しい。第一次大戦当時、ケベックの村から始まったときはホラ話。怪力無双の色男ルイをめぐるドタバタ劇が楽しく、死んだはずのルイの祖母が棺桶のなかから声を発する場面に絶句。第二次大戦後、ルイの娘マデリンが主役となってからも奇想天外なドタバタがつづき、巻頭の一節へと戻る展開がうまい。さらに巧妙なのは、マデリンの息子ガブリエルとマイケルの往復書簡、および書簡中にまじるドイツ人老女マグダの回想を通じて、ルイの生まれ変わりのようなガブリエルの恋愛遍歴と、マグダがナチスの崩壊前後に直面した言語を絶する戦争の悲劇が、いわば硬と軟、静と動の大きな振り幅となって示されている点である。赤軍の迫るケーニヒスベルクグダニスクからの脱出劇には息を呑むばかり。「心の寒さを癒やす歌」というタイトルの意味もよく伝わってくる。が最後、歌手となったマイケルの登場するローマ、歌劇「トスカ」の映画撮影編で物語は急失速。運命のさまざまな赤い糸をひとつにまとめようとするあまり、いちばん大きな糸がほとんど見えなくなっている。ファミリー・サーガ転じて激動の世界史ドキュメンタリーという路線で統一したほうがよかったのではないか。