1日1話のペースで読みつづけ、今しがた、第5話の "The Devil" を読みおえた。へえ、と思ったのは結末に別ヴァージョンがあることで、以前読んだ Penguin Classics 版を調べてみると、主人公の自殺で終わるものしか載っていない。(その後よく見ると、主人公が女を殺す話のほうも巻末に付録として載っていた)。
ともあれ、Evgeny は、結婚する前に関係した若い女にたいする思いを断ち切れない。今や通俗的な設定かもしれないが、現代の作品ではほとんど見かけなくなった「道徳的煩悶」が読みどころだろう。彼は自分の欲望を劣情と見なし、その劣情を抑えられないことに絶望し、破滅する。実際には何も手を出していないのに、心の中の姦淫に苦しんだ末の破滅であり、Evgeny は mentally ill ではなかったと結びにあるものの、現代的な感覚からすれば、彼の行動は狂気じみているとも言えよう。自分の心中の罪にたいし、さほどに厳しかったわけだ。
この過激なまでに厳しいモラリズムは、昨日読んだ第4話 "The Kreutzer Sonata" の場合、さらに猛烈な理想主義として描かれている。語り手と同じ列車に乗り合わせた客の一人 Pozdnyshev が妻殺しにいたった経緯をえんえんと告白する物語で、有名なのはタイトルどおり、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を Pozdnyshev の妻とその不倫相手の音楽家が演奏する場面だが、正直言って、不倫話が始まるまで、小説としてはさほどおもしろくない。いや、そのあとも、単なる不倫話なら現代の作品のほうがよっぽどおもしろい。
が、その代わりここでは、もはや現代文学ではほとんど味わえなくなった、すさまじい知的昂奮を覚えることになる。その意味でめっぽうおもしろい。とりわけ、第11章! Penguin Classics 版を読んだのは8年前だが、上の事情で久しぶりに取り出してみると、この章末に「猛烈な理想主義!」と書いた付箋が貼ってあった。してみると、昔も相当に昂奮しながら読んだにちがいない。
"The Death of Ivan Ilyich" についても書こうと思ったのに、クレーメル / アルゲリッチ盤を聴きつつ、『クロイツェル・ソナタ』についてちょっとふれただけで疲れてしまった。今日はおしまい。