ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Edwidge Danticat の “Everything Inside”(2)

 このところ、Faulkner の "A Fable"(1954)をボチボチ読んでいる。予想どおり、むずかしい。まだ序盤ということもあって、テーマがつかみにくい。いろいろ考えさせられ、なかなか先へ進まない。
 同書は1955年のピューリツァー賞および全米図書賞受賞作。表題作は今年(正確には2019年度)の全米批評家協会賞受賞作。アメリカの有名な文学賞つながりで Faulkner に移ったのだが、Danticat のほうが、短編集だからというわけでもなく、ずっと分かりやすい。一部の例外を除いて、どこの国の文学も現代のものほど易しくなっているような気がする。その理由については思い当たるフシもあり、いつか詳しく考察してみたい。
 さて Danticat のことは、前からずっと気になっていた。"Everything Inside" に続いて読んだ "The Dew Breaker" が長年、積ん読だったからだ。Danticat が最新作で栄冠に輝かなかったら、彼女の作品に触れる機会はもうしばらく訪れなかったかもしれない。
 読んでみると、期待どおり、いい作家だった。短編集というと、今回のように時間がたってから振り返ったとき、はて、これはどんな話だっけ、と首をかしげることがよくあるものだが、"Everything Inside" はメモをちらっと見ただけで、どの話もすぐに思い出した。
 そのうち、読みながら脱線して考えたことを補足しておこう。第4話 "The Gift" は、若い女が長らく音信不通だった不倫相手に贈り物をしようという物語。ぼくがとっさに連想したのは、Graham Greene の "The End of the Affair"(1951 ☆☆☆☆★)。あちらはご存じのとおり、不倫がらみの煩悶が信仰の問題にまで発展する。それが文学的な深みを増すゆえんだが、似たような設定でも宗教の枠組みから離れると、「ちょっといい話」で終わってしまうものだな、と思わずにはいられなかった。これは上の難易度の変化とあながち無関係ではない。
 第6話 "Sunrise, Sunset" は、前期高齢者のぼくには身につまされる話だった。痴呆症気味の母親と、メンタルになった娘、幼い孫が出てくる。You are always saying hello to them [your children] while preparing them to say goodbye to you. You are always dreading the separations, while cheering them on, ....(p.155)まさにそのとおり。が、これも「ちょっといい話」にすぎない。
 まとめると「移民同士の心の結びつきと断絶を過去と現在の対比で綴った短編集」。珠玉の、とまで言えないところが難点で、Danticut も本書を読んだ時点では、いい作家なんだけどね、というくらいの評価だった。それを一変させたのが "The Dew Breaker" である。

(写真は、ぼくのふるさと愛媛県宇和島市の商店街。再アップ。12年前の夏の昼下がりに撮影したものだが、ご覧のとおり、シャッターの閉まった店もあり閑散としている。昔からみんな外出自粛なのでは、と田舎に住む弟と電話で笑い合ったところだ)

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