ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Yips” 雑感 (3)

 仕事の進みぐあいにもよるが、明日にはなんとかレビューが書けそうなところまで読み進んだ。フーフー。残暑厳しいなか、エアコンのないわが家で首筋に保冷パックを当てながら分厚い本を読んでいると、何やら自虐的な快感さえ覚える。洋書オタクの面目躍如である。
 ……などと自己マンにひたっているのは、当初、「そんなに時間をかけるべき作品なのかな」と疑問に思っていた本書の魅力にようやく開眼したからだ。いや錯覚かもしれないぞ、という一抹の不安はあるものの、いざわかったような気分になってみると、うむ、これはかなりの秀作かもしれません。
 「開眼」のきっかけは、おとといの晩、久しぶりに『博士の異常な愛情』を観てケラケラ笑いころげ、あのブラック・ユーモアを堪能したことにある。陳腐な感想だが、戦争の狂気からケッサクなファースを作り上げたキューブリックはまさに鬼才と言うしかない。ピーター・セラーズをはじめ、ジョージ・C・スコット、スターリング・ヘイドンなど、どの役者もキャラが濃く、しかもそのキャラがみごとにテーマと一致している。

 映画を観たあとで、この "The Yips" をふりかえってみた。そうか、これもファースではないか! そのテーマは……と考えはじめたところで、5年前に読んだ Nicola Barker の旧作 "Darkmans" のことを思い出した。今日はそのレビューの再録でお茶を濁しておこう。(点数は今日つけました)。
Darkmans

Darkmans

[☆☆☆☆] 幕切れ近くで「人生は偶然の連続」という言葉を目にしたとき、ああやっぱり、と思った。というのも、最初はいつもどおり、話の本筋は?作者の意図は?と考えながら読んでいたのだが、突飛な行動に走る人物が次々に登場し、何だかヘンテコな事件ばかり起こるので下手な詮索はあきらめ、各シークェンスを追いかけることに専念した。するとこれが無類に面白い。イギリスの小さな町を舞台に展開される狂騒劇、ドタバタ喜劇。何度か思わず吹きだしてしまったが、その一方、情感あふれる男と女の場面もあれば、シュールな幻想小説というかオカルトというか、夢の中のような不条理な事件も起こる。脈絡はあるようでない。いや、あることはあるのだが、躍動感に満ちた饒舌な文体とあいまって、とにかく奇想天外な面白さに圧倒されてしまう。あまりに長くて消化不良を起こすのが玉に瑕だが、偶然の連続、オフビートな日常こそ人生なのだというテーマからふりかえれば、一見何の意味もないような事件も確かな計算のもとに配列されていたことになり、まさに脱帽ものである。英語は難解というほどではないが、口語俗語表現が多く、語彙レヴェルは高い。