ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Teleportation Accident” 雑感 (1)

 せっかくドストエフスキーの英訳短編集を読みはじめたのだが、ブッカー賞のショートリストの発表が迫ってきたのでひと休み。急遽、Ned Beauman の "The Teleportation Accident" に取りかかった。ペイパーバック版がもう出ているから、というだけの理由で以前買っておいたものである。
 久しぶりに William Hill のオッズ表を見ると、多少変動があるようだ。Tan Twang Eng の "The Garden of Evening Mists" が4位に躍進し(8/1)、ぼくが☆☆☆★★★をつけた Nicola Barker の "The Yips" は5位グループに転落(10/1)。けれども、この "The Teleportation Accident" は相変わらず最下位グループだ(20/1)。ちなみに、ぼくのゴヒイキ Alison Moore の "The Lighthouse" は8位(12/1)と人気薄。
 さて、本書はタイトルからしてSFかと思ったが、今のところそうではないようだ。と、ここで裏表紙をちらっと見ると、a science fiction novel との宣伝文句が目についた。きっとこの先、それらしくなるんでしょうな。
 とりあえず最初の舞台は1931年のベルリンで、Teleportation Device という芝居のどんでん返しの装置が出てくる。それがうまく作動せず、役者がけがをしたのが teleportation accident ということらしい。が、その事件は以後の流れとあまり関係がない。
 この装置を考案したのが主人公の舞台装置家 Egon Loever だが、演劇の話題が中心というわけでもなく、Loever が元カノと痴話げんかをしたり、新しい若い子を追いかけまわしたり、といったドタバタ調のラブコメである。コカインやゲイの話も出てくるので、a noir novel というコピーは当たっているかもしれない。
 ずいぶんラフな紹介だが、本書もかなり雑然とした雰囲気で、そこに時代の暗い影、台頭するナチスの影が忍びよっている。序盤にかんするかぎり、ナチスと聞いてすぐに連想する紋切り型を排し、上のような「ドタバタ調のラブコメ」を提示している点が目新しい。さて、ほんとにSFとなるんでしょうか。