ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nicola Barker の “The Yips” (1)

 今年のブッカー賞候補作、Nicola Barker の "The Yips" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

The Yips. by Nicola Barker

The Yips. by Nicola Barker

[☆☆☆★★★] 人生はおよそ不条理で無意味、混沌として何の脈絡もなく、予想外の事件が偶発的に起こるだけで、人はそれにふりまわされ、醜態を演じ、空疎な言葉を吐きちらしながらも不条理に耐えて生きるしかない。もしそれが人生の現実であるとしたら、本書はその現実を極端にデフォルメし、とことん戯画化した型破りなファースである。全編これ、活発でコミカルなおしゃべりに次ぐおしゃべり。その中身は脱線に次ぐ脱線。アクションはドタバタに次ぐドタバタ。通常の意味でのストーリー展開は皆無に近く、出てくる人物は、程度の差こそあれ、ほとんど奇人変人ばかり。比較的まともな人物も狂騒劇、ドタバタ喜劇に巻きこまれてしまう。こんな破天荒な〈トーク小説〉はちょっと読んだことがない。まさに度胆を抜かれるが、あまりに饒舌なおしゃべりと荒唐無稽な茶番のくりかえしにいささか食傷してしまう憾みもある。とはいえ、鋭い文明批評や人間性にかんする深い洞察も読みとれるほか、ナンセンスな口論や喜劇を通じて人生の不条理を端的に表現している点がじつにすばらしい。英語は爆発的なまでにエネルギッシュな文体で、口語や俗語、破格表現が頻出し、語彙の難易度も相当に高い。