今年のブッカー賞候補作、Nicola Barker の "The Yips" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 人生はおよそ不条理で無意味、混沌としてなんの脈絡もなく、予想外の事件が偶発的に起こるだけ。ひとは偶然にふりまわされ、醜態を演じ、空疎な言葉を吐きちらしながら不条理に耐えて生きるしかない。とそんな状況がもしほんとうに人生の現実なのだとしたら、本書はその現実を極端にデフォルメし、とことん戯画化した型やぶりなファースである。全篇これ、活発でコミカルなおしゃべりに次ぐおしゃべり。脱線に次ぐ脱線。ドタバタに次ぐドタバタ。通常の意味でのストーリー展開は皆無に近く、出てくる人物も程度の差こそあれ、ほとんど奇人変人ぞろい。比較的まともな人物でさえ狂騒劇、ドタバタ喜劇に巻きこまれてしまう。こんな破天荒な〈トーク小説〉はちょっと読んだことがない。まさに度胆を抜かれるが、あまりに饒舌なおしゃべりと荒唐無稽な茶番のくりかえしにいささかゲンナリ。とはいえ、鋭い文明批評や人間性にかんする深い洞察も読みとれるほか、ナンセンスな口論や喜劇を通じて人生の不条理を端的に表現している点がじつにすばらしい。爆発的なまでにエネルギッシュな文体で綴られた天下の奇書である。