本書を評価するうえでぼくの頭にあった基準は、雑感(4)で述べたとおり、次の2点である。(1)〈想定外〉のおもしろさがあるかどうか。(2) 思想の掘り下げとはべつに、何か深い内容があるかどうか。
まず (1) について。この基準をもうけたのは、北朝鮮における恐怖の現実がえがかれているだけでは、「フムフムさもありなん」でおわってしまうからだ。それなら潜入レポートのたぐいと大差ないでしょう。その点、本書は拉致の話からはじまり、不謹慎な言い方ながら、やっぱり〈恐怖路線〉かと思わせたあと文字どおり起伏に富んだ展開で、おわってみれば「名画『カサブランカ』の本歌取り」。これに気がついたときは思わず、えっと驚きましたね。ネタを割れないのが残念です。
(余談だが、敬愛する故・双葉十三郎氏はあの名画について、「ごくオーソドックスなメロドラマで、マイケル・カーティスの演出も、ソツなく無難にまとめているという程度である」と手厳しい。フタバさんの辛口ぶりがよくわかるレビューです。なお、BS放送で録画した『カサブランカ』はとても画質がよくて十分満足しているのだが、ブルーレイ版もなかなか評判がいいようだ)。
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これについてもネタを割るわけにはいかないので、どうぞお楽しみくださいとしか言いようがないが、少しだけ書くと、「地上の楽園」という神話を維持するためにマジックリアリズムが使われている。同じ伝で、どこかの国のいろいろな神話を皮肉るのにも使えそうですな。