ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Isabel Allende の “The House of the Spirits”(1)

 きのう、チリの著名な作家 Isabel Allende(1942 – )の処女作 "The House of the Spirits"(1982, 英訳1985)を読了。途中、諸般の事情で長らく中断していたので、じゅうぶんに理解できたかどうか怪しいものだが、なんとかレビューをでっち上げてみよう。

The House of the Spirits: A Novel (English Edition)

[☆☆☆☆★] 愛の現実と国家の現実がみごとに融合された怒濤の大河小説である。根底にあるのは意外に通俗的なメロドラマだが、その通俗性はほとんど気にならない。よくある男女や夫婦、親子の愛憎劇が、まずラテンアメリカ人特有の激しい情熱で振幅を増し、つぎに、三世代にわたるファミリー・サーガとして語られることでスケールアップ。そのうえさらに、社会主義政権の誕生からクーデター発生、軍事独裁政治への移行という現代史の流れに組みこまれた結果、壮大な歴史ロマンスへと発展している。一方、どの人物、どのエピソードの描写も丹念で精緻をきわめ、一事たりともゆるがせにしないという情念ないし気迫がこもっている。マジックリアリズムの技法も認められるが、喧伝されるほど大きな役割は果たしていない。精霊たちとふれあうのはほとんど超能力者(クラーラ)だけで、その霊力も限定的。精霊(クラーラ)の存在意義は、家族の絆をふかめ、一家の物語を雄弁に語らせるところにある。本書のマジックリアリズムは、いわば「理屈のあるマジックリアリズム」である。そのクラーラをはじめ、娘のブランカ、孫娘のアルバが家長エステーバンと愛憎劇をくりひろげる展開は、男性優位の社会にあって女性がしだいに発言権を獲得する近代化の流れを反映したものでもあり、これまた「愛の現実と国家の現実の融合」といえる。復讐の連鎖を断ち切れという最後のメッセージは、独裁の政治的現実にむけられた希望の表明。家族愛と祖国愛に裏打ちされた、のちの大家渾身の力作である。