ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Carol Rifka Brunt の “Tell the Wolves I'm Home” (1)

 Carol Rifka Brunt の "Tell the Wolves I'm Home" を読了。今年の米アマゾン上半期ベストテン小説のひとつである。さっそくレビューを書いておこう。

Tell the Wolves I'm Home

Tell the Wolves I'm Home

[☆☆☆★] 点数は辛めにつけたが、じつは通勤快読本。筆の滑りぐあいがよすぎる、甘い感傷が鼻につく、などと重箱の隅をつつくのはやめ、上質のメロドラマと割り切って楽しむほうがいい。思春期の孤独で内気な少女が、昔は仲が非常によかったが最近は何かと意地悪をする姉ともども、エイズで死期の迫った有名な画家の叔父に肖像画を描いてもらう。叔父と深く心が通じあっていた少女は、叔父の死後、叔父と特別な関係にあった青年と出会い、当初は彼を忌み嫌うものの、次第にその優しい人柄に惹かれていく。根底にあるのは純情で繊細な少女の恋、そして家族愛の物語だが、エイズにかんする正しい知識がまだ一般には広まっていなかった時代の話ということで、病気への誤解が単純な物語を複雑化している。そこへさらに定番の嫉妬がからまり、その葛藤を解きほぐす過程がミステリアスでおもしろい。題名は肖像画のタイトルでもあり、その意味が明らかになったとき、本書の根底をなす純愛の意味もまた明らかになるという展開が秀逸。英語はごく標準的でとても読みやすい。