ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ian McEwan の “Sweet Tooth” (2)

 まず評価のことから補足しよう。読みおえた直後は、☆☆☆★★★くらいかなと思ったのだが、レビューを書いているうちに、いやいや、これほどみごとにダマされたのだから、★を一つオマケしようと考えなおし、結局、☆☆☆☆にした。(☆は20点、★は5点)。
 佳作ではあるが、秀作とまでは言えないかもしれない。「恋愛にかんして深い洞察が示されるわけではない」し、「魂をゆさぶられることもない」からだ。
 それゆえ最初の評価となるわけだが、正直言って、ぼくは終盤近くまで、なんだ、たいしたことないな、とバカにしながら読んでいた。それだけに、本書における「愛の陰謀」の真相を知ったとき、やられた! と心の中で叫んでしまったのである。
 Ian McEwan の実力を知るおおかたの読者は、ぼくのようにダマされることはきっとないだろう。McEwan が「女スパイの単純な恋物語」など書くわけがないからだ。冷静に考えれば当然のことなのに、「ありきたりの恋愛沙汰、よくある不倫、月並みなラヴシーン、やがて女諜報部員が標的の男を愛して悩むようになるという通俗的な筋立て」に接するうち、ついつい「なんだ、たいしたことないな、とバカにし」てしまった。文学ミーハーの目から見ると、これはほんとうにトリッキーな小説です。
 ただし、中には最初から真相を見ぬける人もいるような気もする。え、こんなトリックに引っかかるようでは、おたくもまだまだ甘いねえ、と笑われそうだ。そんな人からすれば、これはやっぱり、☆☆☆★★★、いや、☆☆☆★★でもいいかもしれない。ともあれ、ネタを割れないのが残念です。