ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Mitchell の “Black Swan Green” (1)

 David Mitchell の "Black Swan Green" を読了。2006年のブッカー賞一次候補作で、2007年のアレックス賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 1982年、イギリスの小さな村が舞台。開巻、少年が主人公とわかり、才人ミッチェルが青春小説の分野でどんな新境地をひらいているのか興味がわいたが、残念ながら、いささか期待はずれ。従来のパターンをさして打ちやぶるものではない。むろん、工夫はいろいろ凝らされている。どもりで内気な少年が、どもりゆえにたえず緊張をしいられ、いじめを受け、難を逃れたり堪え忍んだり、逆襲に転じたり醜態をさらしたり。抱腹絶倒もののドタバタ喜劇をはじめ、随所にコミカルな場面があり、手に汗握る夜の冒険や、ガキ大将との対決、不器用な友人との交流、淡い初恋、不仲になりはじめた両親との微妙な関係、ふう変わりな老婦人との心温まるふれあいなど、どのエピソードもよくできている。とりわけ舌を巻いたのは、生徒が『蠅の王』を朗読するうちに、その内容とは裏腹にいじめが進行する授業シーン。まさに才人の面目躍如である。80年代初期の映画や音楽などの扱いかたもうまい。が一方、どの場面も読んでいる最中は大いに楽しいのだが、過ぎてしまうと心にさほどのこるものがない。ふりかえると上記のごとく、定番の青春小説である。