ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The High Mountains of Portugal" 雑感 (2)

 これはまことにケッタイな小説だ! マジックリアリズムメタフィクションその他、今までいろいろフシギな作品に出会ったが、これはその中でも、そう、ベスト?テンに入るほどの奇想小説である。今のところ。
 全体は3部構成で、タイトルにいちばん関係ありそうなのが第1部 "Homeless"。20世紀初頭のポルトガルリスボンから山中の村までのロードノヴェルで、主人公は国立古代美術館の副館長をつとめる Tomas。彼は内縁の妻と子供、それから父親に相次いで死なれ、孤独と絶望の淵にある。そこで世間の荒波に耐えるべく、なんと後ろ向きに歩きはじめる。'....when one is walking backwards, one's more delicate parts ― the face, the chest, the attractive details of one's clothing ― are sheltered from the cruel world ahead ....' (p.9) 奇想の始まりである。
 おりしも Tomas は、17世紀にアフリカで黒人相手に布教活動をしていた Ulysses 神父の日記を発見。その中に書かれたみごとなキリストの十字架像に強い関心を寄せる。それは現在、どうやら high mountains of Portugual のどこかの教会にあるらしい。旅の始まりだ。
 その珍道中ぶりが第1部の読みどころだろう。Tomas は資産家の伯父に、当時まだ珍しかった自動車を、それも外車のルノーを貸してもらうのだが、そもそも運転の仕方がよくわからない。マニュアルは読めないフランス語で書かれている。こういった状況を皮切りに、次から次に起こる事件がとてもユーモラスで楽しい。
 一方、その旅は Tomas にとって絶望から立ち直る人生再出発の意味もあり、彼は十字架像の発見が心の救済につながるものと期待している。旅の途中、彼はしばしば Ulysses 神父の日記をひらくが、そこには今の自分と同様、孤独と絶望にさいなまれた神父の心境が綴られている。つまり、現在と過去の物語が心理的に平行して進むわけだ。
 それゆえ前回まとめたように、本書は「ストーリー・テリング、ユーモアあふれる筆致、それから主人公のキャラ作りという点ですぐれている」。なるほど。しかし、そのどこがケッタイなんだ? という声が聞こえてきそうですな。
 正直言って、第1部の終わりにはガッカリした。それまで起伏に富んだ展開だったのに、あっけない幕切れだったからだ。とそう思えたからだ。
 ところが第2部 "Homeward"、第3部 "Home" と読み進むにつれ、何じゃこれは! と思わず叫びたくなるような事件が発生。ネタを割らないように紹介するのは、ちとむずかしい。第1部とのつながりもだいぶ見えてきたが、まだまだグランドデザインは不明。ひょっとしたら、最後の最後で、あ、そういうことだったのか、とわかるのかもしれない。
(写真は、宇和島市神田(じんでん)川ぞいの古い街並み。昔はもちろん土の道で、ガードレールもなかったが、それ以外はあまり変わっていないような気がする)。