ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"4321" 雑感(2)

 通勤読書につき鈍速ながら、ようやく中盤に差しかかってきた。相変わらず、とてもおもしろい。
 が、Paul Auster の作品としては最上の出来ではないように思う。うまいことはうまいのだが、熱気やアイデアの斬新さという点で、従来の代表作、たとえば "The New York Trilogy" や "Moon Palace" などをしのぐものではなさそうだ。今のところ、☆☆☆★★★くらいだろうか。ブッカー賞落選もむべなるかな、という気がしてきた。
 とはいえ、これと同系列の作品、SFのパラレル・ワールドに近い物語としては、ぼくが今まで読んだなかでは秀作の部類に入る。前回もふれた Kate Atkinson の "Life after Life" [☆☆☆★] や、Jenny Erpenbeck の "The End of Days" [☆☆☆★] など目じゃありません。
 なぜパラレル・ワールドか? このミもフタもない疑問に対して、純文学の作品は説得力のある答えを用意しておかなければならない、というのがぼくの考えだ。娯楽小説なら、はい、そんな世界があるんです、というだけで済む。読者のほうもそのつもりで読むからだ。
 けれども、こと純文学となると、パラレル・ワールドの存在する必然性が欲しい。異次元の世界を描くことによってはじめて見えてくる人生の意味を示してもらいたい。文学とは人生を芸術的に描くものだからだ。あ、それがぼくの独断と偏見に満ちた文学観です。
 その点、上記の "Life after Life" や "The End of Days" は不合格。"4321" は、かなりいい線を行っている。本当はそれを論証しなければならないのだが、まだやっと中盤ということで、ぼくの勘違いかもしれない。もうしばらく様子を見ましょう。
(写真は、宇和島市立宇和津小学校の裏手にある桜)