ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jenny Erpenbeck の “The End of Days”(1)

 きのう、Jenny Erpenbeck の "The End of Days"(2012)をやっと読了。ドイツ語からの英訳版で、2015年の Independent Foreign Fiction Prize の受賞作。2016年の国際IMPACダブリン文学賞の最終候補作でもある。

The End of Days

The End of Days

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[☆☆☆★] 人生にタラレバ話は禁物だが、本書の設定はうまい。死んだ人間に、もし生きていたら、あのときこうであれば、とまたべつの人生を歩ませる。その結果、歴史の生き証人から見た二十世紀の大事件と、それにともなう庶民生活の変遷が端的に示される。ふたつの世界大戦、スターリンの血の粛清、ベルリンの壁崩壊。世代を継ぎ、主役を交代させながら歴史を物語るのは定番の手法だが、そこに死者の復活とSFのパラレル・ワールドに近い展開を導入することで、いわば新しい革袋に盛った古い酒がつがれ、けっこう飲める。が、この斬新なアイデアも最初のうちこそ効果的だが、なんどもヒロインが「よみがえる」うちにパターンが鼻につき、飽きがくる。たしかに戦争によって人びとの生活は激変し、進歩と革命の時代に恐怖政治が生まれ、体制の変化によって価値も一変するという流れは手に取るようにわかる。が、それは通史を読んでも同じこと。ここでけっして新しい解釈が示されているわけではない。しょせん古い酒は古い酒。竜頭蛇尾に終わったクロニクルである。