ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ivy Compton-Burnet の “Manservant and Maidservant”(1)

 イギリスの女流作家 Ivy Compton-Burnet(1892–1969)の "Manservant and Maidservant"(1947)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 

[☆☆☆★★] 各章ともだれかの発言ではじまり、以後もほとんど会話ばかり。地の文による人物や事件の説明は必要最小限に切りつめられ、まるで「会話小説」といってもいいほどだ。語られるのは日常茶飯の勘ちがいや思惑はずれなど、こっけいなエピソードが多いが、必ずしもストレートなわかりやすいユーモアではなく、むしろ晦渋で冗漫に近い婉曲表現が頻出。それを大人だけでなく、子どもたちも発しているのは19世紀末という時代背景によるものか、それとも作者独特の文学スタイルなのか。ともあれ、含みのある言葉の裏にひそむ心理の動きや事件の流れを根気づよく追いかけていると、やがて当時のイギリス上流家庭における権力構造が見えてくる。専制君主のように横暴な主人。夫に愛想をつかした妻。つねに父親の顔色をうかがう子どもたち。中間管理職として家事を切り盛りする執事と料理女。忍従と反抗をくりかえす下働きたち。こうした人物関係の織りなす「存在のドラマ」を通じて、権力欲や支配欲、残忍性、エゴイズムといった人間の負の本質を、こっけいな「会話小説」スタイルでえぐり出すところに非凡な独創性がある。後半、中間管理職のふたりの出番が増えると同時にコメディらしくなり、ウィットに富んだセリフも楽しめる。ふたりにはタイトルどおり、当初からコンビで活躍してほしかった。