ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Moby-Dick" と「闇の力」(2)

 メルヴィルの英語は非常に難解で、その昔、"Moby Dick" も脳ミソをこってり絞りながら読んだ憶えがある。で、昨日引用した箇所にたどりついたときはガクっとしたものだ。今まで白鯨の白さについて、ああだこうだと書いておきながら、その「謎はまだ解かれていない」だと! しかも、そのあとイシュメールはこう続けている。
 われわれが銀河の白い深淵をのぞき見るとき、…虚無の思想に背後から刺される思いがするのは、白の無限定性のゆえだろうか? あるいはまた、白さとは、本質的に色というよりは色の目に見える欠如であり、同時にあらゆる色の具象だからだろうか? 広大な雪景色には、意味に充満した無言の空白があるからこそ――色のない、あらゆる色といった無神論があるからこそ、われわれはそれにひるむのだろうか?…そして、あの白子鯨こそが、これらすべての象徴である。(八木敏雄訳)
 中略のせいで何だか意味不明になったかもしれないが、大筋は間違っていない。要するに、白鯨の白さは「虚無」、つまり意味なき意味の象徴だというのだ! では、今までさんざん述べてきた講釈はいったい何だったのか? ここでますます打ちのめされてしまったことは言うまでもない。
 ともあれ、昨日の引用箇所と上記の内容を「基礎知識」に付け加え、最初から改めて整理してみよう。
  1.エイハブ船長は、白鯨をいわば根元的な悪の存在と見なしている。
  2.それゆえ、エイハブにとって白鯨を仕留めることは悪の根絶である。
  3.エイハブは、ピークォド号の乗組員たちにとってカリスマ的な存在である。
  4.エイハブは白鯨を仕留めようとして、乗組員ともども海の藻屑となってしまう。
  5.ただ一人生き残った乗員イシュメールは、白鯨の白さにいろいろな意味を見いだしている。
  6.イシュメールは、人間の魂を揺さぶるような力を白鯨に認めている。
  7.イシュメールにとって、白鯨の白さは「虚無」の象徴である。
 この7点を眺めていると、ぼくにはメルヴィルの創作意図と、ひいては「闇の力」の正体が見えてくるのだが、この続きはまた後日。