ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Matthiessen の “Shadow Country”(1)

 2008年の全米図書賞受賞作、Peter Matthiessen の "Shadow Country" をやっと読了。The Watson Trilogy の合冊リメイク版で、合冊前の旧題は、第1部 "Killing Mister Watson"(1990)、第2部 "Last Man's River"(1997)、第3部 "Bone by Bone"(1999)。さっそくレビューを書いておこう。 

Shadow Country (Modern Library)

Shadow Country (Modern Library)

 

 [☆☆☆★★★] どの国の歴史にも光と影があり、どんな人にも光と影の側面がある。本書はそのうち、南北戦争後も自由の国に影を落とす人種差別を背景に、アメリカ最後のフロンティア、フロリダ半島南端部で農園主として成功しながら、無法者や強欲な男たちを相手に、時には手を汚さざるを得なかったダークヒーローの物語である。主人公E・J・ワトソンは風評では殺人をいとわぬ恐怖のレジェンドと化すものの、実のところ悪人ではない。さりとて、むろん善人でもない。いわば善悪入り混じる灰色の「影の国」にあって、タフでなければ実際生きていけなかったタフガイである。優しくなければ生きている資格がない、などと悠長なことを言っている余裕がなかった時代と舞台の象徴である。第一部ではその人物像が複数の関係者によって次第に明らかにされ、視点の変化と構成の妙が光り、ワトソンの破滅にいたる終幕の緊迫感が強烈。彼の息子が事件の真相をさぐる第二部は後日談の域を出ないが、ワトソン自身が少年時代から最期までを振り返った第三部は全篇の白眉。リーガルサスペンスあり冒険アクションあり、悪党との対決やガンプレイなど西部劇でおなじみの場面にニヤリとさせられる。ワトソンが妻子への愛や、心の弱みを正直に告白するなど、生きる資格とは無関係に優しい一面を見せる点も、定石どおりながらよく描けている。こういう弱肉強食の世界に生きた人物の光と影は、作者にとってアメリカという国家のアイデンティティにつながるものかもしれないが、それを物語る確たる証拠はない。そもそも国家の、あるいは人間の光と影とは、少なくとも西欧の場合、いかに在るべきか生きるべきか、という正義のもたらす功罪にかかわっている。そうした問題にまで発展することのない、しかし超大作である。